何でもゆずる嫁

嫁は何でもゆずる、あまり欲がない。


聞いた話によると、運動会の練習でリレーの選手をしていた際、後ろを走る他の選手に、どうぞとゆずってしまったそうだ。

選手に選ばれるほど速いのに。


運動会本番はどうしたのだろう? 多分、走る事より、ゆずらないことを頑張ったに違いない。


嫁には、闘争心や競争心のようなものが基本的にない。


この前は、猫に枕をゆずって寝ていた。

ベッドを見ると、我が家の猫が嫁の枕に頭を置いてこちらを見ていた。

一瞬ドキッとした。嫁はただでさえ猫顔だから、嫁が本物の猫になったかと思って驚いた。そんな訳ないのだけれど。


嫁は枕から頭を外して斜めに寝ていた。

首を寝違えるのではないかと心配だった。



嫁は洋服や靴を買う時に、わたしに一緒に来てほしいと頼む。


物欲があまりない嫁は、『何となく欲しいな』というものがあっても、誰かのプッシュがないと買わないのだ。



今年の正月、嫁とショップに行った。

嫁はスカートとシャツが欲しいと言っていた。


「ねえ、これとこれどっちがいいかな?」

「そうだね、このチェック柄の方が似合うんじゃないかな」


スカートとシャツはスムーズに決まった。

嫁は満足そうだった。


わたは長年の経験で、嫁が『本当は欲しい』と思っている物が、嫁の行動から分かるようになっていた。


「この靴は?」


「本当は欲しいけど、サイズが合わないと思う」


嫁は店員に話しかける事がなかなかできない。忙しそうだから申し訳ない、と思うようだ。


私は店員に他のサイズが無いか聞いた。

無事に購入。


嫁がジャケットを見ていた。


『ただでさえ予定になかった靴を買ったのだからもう十分。いいなあと思って見ているだけ』

そんな嫁の心が伝わってくる。


「はい、そのジャケット購入」


わたしが決める。

そうしないと、嫁は買わないから。


結婚当初からそうだったように思う。


お金の事も気にしているのだろう。

嫁はお金を本当に使わない人だ。


そう言えば昔。下着をぎりぎりでやり繰り出来る枚数しか買わずに、「下着、ぎりぎりゲーム」を一人で楽しんでいた。


ちょっと変わった節約家の嫁なのだ。


「それだけは辞めてほしい」と数回にわたるわたしの要望で、今は辞めてくれた。


ホッとしている。



何でもゆずってしまう嫁。

そして節約家の嫁。


でも数は非常に少ないが、本当に気に入った物には思い入れが強い場合がある。


ピノキオの小皿はその一つ。


ある日、わたしが皿洗いをしていて手が滑り、1枚割ってしまったのだ。


「なにやってんだよ!!」


すごく怒られた。


『まじで怖いな』


私が買ってあげた物だ。だから大切に思ってくれるのはありがたい。

だけどそんなに怒らなくても……


物欲のない嫁だが、突然変異する事がたまにある。


それから、わたしはピノキオの皿を洗う時にむちゃくちゃ緊張している。

もし割ったら、また怒られるに違いない。



そこは譲ってくれないようだ。



でも、嫁が自分の大切な物について自己主張できたのは、純粋に良かったと思う。

嫁には、好きな物に囲まれて暮らしてもらいたい。


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