ラストエピソード

 

 嫁と初めて会話したのは嫁がまだ15歳のときだった。

 わたしは既に成人していたので、恋愛とか結婚とかは頭の隅にも浮かばなかった。


 嫁は15歳なのに、わたしをみて

「なんてかわいそうな人がいるんだろう」

と思ったそうだ。

 

 当時わたしは仕事をしていたし、恋人もいた。

 だが、色々な面で辛かったのは事実だった。

 わたしが自分の人生を辛い、と感じ始めたのは小学2年生の頃だった。

 人生と呼べるほど長く生きていなかったが、そう感じはじめた。

 

 サイキックな嫁は15歳にして、わたしの辛さを感じ取ってしまったに違いない。

 嫁は心の中でこう祈ったそうだ。

 「どうか天使のような人が来て、結婚して彼をいやしますように」


 嫁はその後留学し、いじめを経験し、神秘体験をしたことで周囲から悪魔呼ばわりされる等、数々の辛い経験を重ねた。一神教が主流である国では、どんなに素晴らしい経験でもその宗教の教えから外れた経験を、場合によって悪魔の影響と言われることがあるらしい。その点、八百万の神々がいる日本文化は幅が広いと思う。


 留学中、嫁はわたしに手紙をくれた。その手紙はまるで日記のように、日々のことが綴られていた。嫁は辛かったのだろう。

 わたしはどう返事をすればいいのか分からず、あまり書けなかった。

 しかし、何故か忘れたころに手紙が届く。そして嫁のことを思い出す。その繰り返しだった。

 目に見えないところで繋がりが出来はじめたのかもしれない。

 

 不思議な事の運びで、嫁が成人してからわたしたちは結婚した。

 その後、嫁はわたしの鬱や神経症、経済面等、違う辛さを経験するのだから本当にかわいそうだ。


 だが……

 そんな嫁は笑顔でこう言うのだ。

 「天使はわたしだったね、キャハハハハハハハハ」


 本当にあなたは天使だ。

 変わり者で、天然で、サイキックで、優秀で、とぼけていて、物知りで……でも物を知らない。つかみどころのない天使だ。


 そんな嫁とこれからも生きていく。

 この先どんなことがあるのだろう……

 はっきりしていることは、嫁はこれからも笑顔を絶やさないことだ。


 平均寿命で考えると、わたしの人生はまだ数十年ある。

 嫁はまだ折り返し地点にもきていない。

 でも、どうしても死ぬときのことを考えてしまう。

 どちらかが残るのはいやなのだ。


 神様に願う事

「できれば、死ぬときも一緒でありますように」




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