第51話 自動車が乙女?


 わたしと嫁は同じ車に乗っている。


 嫁が帰宅後にこう言った。

「今日私の自動車と話したんだけどさー、なんかーすごい乙女だったんだけどー」


 相変わらず、何とでも話ができる変わった嫁である。

 とうとう自動車と話しだした。

 まあ、人も車も元は原子だから、本当はそんなに変わらないのかもしれない。


「へーそうなんだ」私は返事をしながら窓の外の自分の自動車を見た。

 なんか……気のせいかおっさんに見えてしまった。


 すると嫁が「あなたの自動車はおっさんだよ!」


 『当たっちゃった』


 嫁の自動車と私の自動車は、車種も色も同じだ。

 乙女もおっさんもないだろう。

 

 でも……

 私が嫁の自動車を運転して思う事。

 コンビニに駐車しても、ガソリンスタンドに入っても、何故か見られることが多い。嫁に譲る前、わたしがメインで乗っていたときもそうだった。

 逆に今の自分の自動車を運転しても、人からの視線を感じる事はない。

 

 確かに人は、一般的におっさんより、乙女に目を向ける事の方が多いだろう。

 もしかしたら嫁の車の発する乙女エネルギーで人は振り向いてしまうのかもしれない。おっさんエネルギーでは人を振り向かせることはできない。


 乙女らしき嫁の車は、汚れると不機嫌になりしゃべらなくなるそうだ。

 わたしが嫁の車を綺麗に掃除した後に必ず嫁が言う。

「機嫌が戻ってまたしゃべるようになったよ」

 乙女だから綺麗好きなのだろう。


 最近嫁の車を掃除すると

「ありがとう」

 と言われているような気がしてならない。


 あれ、この自動車達、本当に乙女とおっさんなのかな?

 それにしても、嫁は乙女の自動車と、いったいどんな会話をしているのだろう?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る