第50話 同じ物……自動車編

 嫁の車に故障が目立つようになった。

 最近は変な音までするようになっていた。

 田舎暮らしのわたしたちにとって車は足替わり。

 早急に嫁の車探しが始まった。


 嫁は神経過敏症だが、車に関してはその症状がより顕著に表われる。

 エンジンの音、振動、車の大きさ、ドアの重さ、ウインカーの音、その他……

 少しでも神経にさわれば乗れなくなるのだ。

 今乗っている車は、嫁の神経に比較的良かったのだが、同じ車種はとっくにモデルチェンジしていて、それは嫁に合わないようだ。

 

 しばらく嫁は色々な車の試乗を繰り返したが、そのつど疲れはてて帰ってきた。

 嫁が試乗する前に、まずわたしが試乗して様子を伝える等の策を講じたが、嫁の神経に優しい車はなかなか見つからなかった。

 試乗するとその後、場合によっては心身症になり一日動けなくなった。

 

 『嫁の乗れる車はあるのだろうか?』

 そう思うほど嫁の車探しは難しいのだ。

 サイキック能力がある嫁は、同時にかなりデリケートでもある。


 みかねたわたしは、わたしの車を運転してみる事を勧めた。

 わたしは、ちょっと癖のある車種に乗っている。

 嫁には乗れないだとろうと思い、二人で出かかるときはいつも嫁の車だったのだ。


 試しに運転してみた嫁

「これ、大丈夫みたい……」


 そう言った嫁の顔は、

 わたしに乗れる車があった、よかった。という安堵に満ちた表情だった。

 よほど車探しに疲れていたようだ。


 嫁に聞いた。

「本当に大丈夫なの? 癖があるでしょう?」

 嫁は答えた。

「大丈夫、しっかり作りこんであるのがよくわかる車だから、ウインカーの音もいいし」


 『そう、それはよかった』

 

 でも問題が一つある。

 これはわたしの車である。しかも、かなりお気に入りの車なのである。

 嫁の顔を見ると、車をゆずる以外に解決策がないことは明らかだった。


 わたしの車探しが始まった。

 しかし、わたしはどうしても嫁にゆずった車がよかった。

 そこで嫁に言った。

「同じ車、買おうかな」

 嫁は「いいよ!そうしたらわたし両方乗れるから心配ないもん」

 

 ……確かにそうだ。


 わたしは同じ色の同じ車を買った。

 装備がちょっと豪華なやつにさせてもらった。

 納得納得。


 ということで……

 わたしたちは毎日、同じ色の同じスマホを持ち、同じ色の同じ車でそれぞれ出掛けているのである。


 揃えるつもりはないのに同じものを持っていることが、なんとなく不思議だ。

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