第41話 家さん手を挙げて……パート2


 手を挙げてくれた家に引っ越してから、わたしたちは小さな会社を運営するために、ただただ一生懸命だった。

 もともと神経症と鬱のわたし。必死だったが、仕事が出来るだけで大きな喜びだった。

 嫁も神経過敏症や持病を持っていた。

 それに加え、二人とも事故によるむち打ちの後遺症もあり、病院通い中だった。


 でも、新しい環境に満足していた。

 大好きな公園が目の前、夏には花火が見えたり……

 手を挙げてくれた家は、沢山の追加サービスを用意してくれていた。


 ある日、嫁が「今日は公園で昼食にしよう!」と言った。

 おにぎりを持って公園に行った。

 平日の昼、誰もいないお気に入りの公園での昼食は格別だった。


 決して順調な毎日ではない。嫁にとって当時の生活は試練と忍耐の日々だったと思う。

 申し訳ない。

 でも嫁の明るさに頼るしかなかった。

 嫁は何故笑顔でいられたのだろう。

 天然だから?

 変わり者だから?

 サイキックだから?

 優しいから?

 忍耐強いから?

 ただ我慢していただけ?


 正直、分からない部分もある。

 でも、当時わたしは明らかに支えてもらっていた。


 あの日の公園での昼食。

 嫁のにぎったおにぎりの味、太陽の光、優しい風、空気の匂い、嫁の笑顔……

 はっきりと覚えている。


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