第24話 おい、おまえ、水持ってこい!
母が生前、嫁の事をこう言っていた。
「私は ....... ちゃんのこと、お嫁さんだと思っていない」
確かに、俗にいう「お嫁さん」らしくないのが我が嫁である。
それには、色々と理由がある。
*
こんなことがあった。
以前、実家に帰省した時、嫁がふざけて私にこう言った。
「おい、お前、水持ってこい!」
それを聞いた母は、「何ですか、その言い方は!」とすかさず割り込んだ。
そりゃそうだ。だが、嫁は大胆にも笑っていた。
このふざけた命令口調は、嫁にとっての幼少時代のトラウマの癒しだった。私と二人でいる時に、度々していたある意味遊びだった。だから、私は何とも思わないのだが。実家で、その遊びをしてしまった自分に可笑しくて爆笑していた。
もちろん、その後、嫁は説明を加えて、きちんと母に謝罪をしていた。
*
正月、再び帰省し嫁が雑煮を作った。母を在宅介護している父を少しでも楽させてあげたい、その一心で嫁は一生懸命に雑煮を作った。だがそれは、その場のひらめきで作ったブロッコリー入りの変わった雑煮だった。
父も母も黙って食べていた。「おかわりあるよ……」嫁は精一杯の気づかいを見せたが、誰もおかわりしなかった。
「なんでブロッコリー入れたの?」と訊くと、
「だって、ブロッコリーって体にいいじゃん!」っと言っていたっけ。
その会話を見て、母も父も吹き出していた。
翌朝、父が雑煮を作っていた。「やはり、これがないと正月が来ませんね~」と言いながら。
そんな父の後ろ姿を、黙って見ていた嫁。
*
嫁は自分がお嫁さんらしくない事や、常識知らずのことで悩んでいた。せめて自分の出来る事をしたいと一生懸命だった。だが、その努力は虚しく常に散っていく。
だからわたしはある日、嫁をかばいたくて母に言った。
「なかなかお嫁さんらしくなれないみたいだけど……」
話し終わらないうちに母が口をはさんだ。
「分かってるわよ、それでも精一杯やっているのよね」
そして言った。
「私 、........ ちゃんのこと、お嫁さんと思っていないの、親友と思っているの」
そういえば、母は家族の誰にも話したことのない母自身のことを、嫁には色々と話していたらしい。嫁は母の言葉を聞いて安心していた。
その会話の数年後、母は他界した。
私の心には、今も母の「親友と思っているの」との言葉が刻まれている。
きっと嫁の心にも刻まれているに違いない。
嫁を受けいれてくれた母に感謝である。
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