第8話 ご飯がおいしい時


 ご飯を美味しく頂いた時、満ち足りた感がある。

 おそらく皆そうだろう。


 嫁は「おいしい」と言葉や態度で表現するのが上手だ。

 何ともいえない朗らかな雰囲気になる。



 私は神経症のため、時々仕事を休む事がある。そんな時、食事作りだけはやろうと思っている。


 私は、嫁が「おいしい」と言ってくれるのを期待して料理を作る。


 先日、帰宅した嫁が、


 「あー、お腹空いた~。でも何にもしたくなーい。疲れた」 


 そう言っていたので、ちょっとしたおかず、マカロニサラダ、味噌汁、納豆、やっこ、を用意してあげた。いずれも嫁の好物である。


 私が何かしているうちに、嫁はペロッとたいらげ、私は嫁の「おいしい!」の一言を聞き逃してしまった。でも、その言葉は彼女がたいらげた後の食器から伝わってきた。その食器からは、「あーおいしかった、うれしかった、ありがとう」という雰囲気が伝わってきた。米粒一つ残さずに、綺麗に食べてあった。


 「おいしい」は、例え聞こえなくても、感じることができる。

 「おいしい」は、「ありがとう」という言葉に等しく美しいと思う。


 でも、私がいないところで嫁が何かを食べ終えた時、「おいしい」という言葉を聞き逃してしまう。

 ちょっと残念なのである。

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