あのさぁ、そういうところやぞ。


 間先輩は私と亮介先輩をじろりとみると、顎を動かしてなにかを示した。


「あの2人を尾けるから、お前らカモフラージュになれ」

「「……は?」」


 耳を疑った。

 今なんと言った? 尾けるからカモフラージュ…?? 私と先輩のラブラブデートなのに、間先輩に利用されるってこと?


「嫌ですよ! なんで私達が! そもそも私達の邪魔です!」


 それには私も我慢ならない。

 大声で反論すると、「あ゛ぁ!?」とガン飛ばされたが、私は負けない。楽しむためにやって来た旅行先で迷惑をかけられ、更に迷惑かけられるなんてたまったもんじゃない!

 そもそも花恋ちゃんは間先輩のストーカー行為で怖がっているんだ。その共犯になんかなるわけがなかろうが!!


「あんた何なんですか! 亮介先輩とおそろいの耳とか付けちゃって、ふたりは仲良しみたいじゃないですか! 腹立つなぁ!」


 亮介先輩と間先輩は奇しくも同じふわふわクマ耳を装着している。モノ凄い仲良しさんみたいで気に入らない! 一番仲いいのは私だから! その座は渡さないからな!


「うるせぇーよ! この中で浮かないように我慢して付けてたんだっつの!」

「おい」

「言っときますけど、亮介先輩のほうが可愛いですから!」

「あやめ」

「はぁー!? そんな事どうでもいいんだよっ! そんなごつい男にクマ耳つけて、なーにが可愛いだ!」


 なんだと!? 聞き捨てならないな!

 私と間先輩は口論した。どんどんヒートアップして声が大きくなっていった。仕方ない、私の腹の虫が収まらなかったのだ。横で先輩が私を呼んだ気がしたが、私はこの男にバッサリ言ってやりたかった。


「そんな風に気持ちを押し付けられても、花恋ちゃんは振り向いてくれない! どうしてそれがわからないんですか!」

「なっ……そもそもお前が邪魔するから悪いんだろうが!」


 またそんな事言って! そんなんだから間先輩は花恋ちゃんにフラれるんです!

 間先輩は怒りで顔を真っ赤にしていた。だが私は抑えてやるつもりはない。この機会にいいたい事はすべて吐き捨ててやる所存だ。


「いいですか、過去を振り返っていたらいつまでもそこに取り残されたままなんですよ! 間先輩はもう少し未来を見るべきです!」


 そもそもあんたは花恋ちゃんを美化しすぎているし、自分に過剰な自信を持ちすぎだ。人のせいにしがちだし、わがままもいいところだ。そんなままで一生暮らしていくのかあんたは!


「あやめ」


 私を止めようと先輩が肩に手をかけてきた。

 だけどもう後には引けないのだ。今は止めてくれるな。全ては私達のラブラブデートのために!!


「止めないでください先輩。私が必ずや…」

「違う、見つかった」

「え…?」


 見つかったとは?

 私が首を動かすと、その先に黒いネズミーの耳をつけた男性と、同じものにピンクのリボンを付けた女性の姿があった。彼らと目がぱっちり合った私は悟った。

 あぁ、見つかったってそういう……


「おいっ田端あやめ! お前これを計ったな!?」


 計ってないけど、半分は私も原因である。

 だけど見つかりたくないのに騒いだのは間先輩もであろう。人のせいにするのが好きだなぁこの人は…


「…3人でネズミの国にやってきた…って訳じゃないよな」


 蓮司兄ちゃんは私達を見比べて考えを改めていた。間先輩と私達は仲が良くない。一緒に仲良しこよしでネズミの国にやって来るわけがないのだ。


「あやめちゃんも今日来てたんだね!」

「うんそうなんだ」


 私が先輩とネズミの国に旅行へ行くと言う話を聞いて、羨ましくなったという花恋ちゃんも旅行先に同じ場所を選んだという話は聞いていたが、日にちがダブるとは思わなかった。

 示し合わさなかったにしてもスゴい偶然。それとも元ヒロインと元攻略対象という役柄が彼らを引き寄せたというのか……


「あやめちゃんレディリサの付け耳なんだね! 可愛い!」

「えへへ、先輩とペアにしようと思って」


 私のクマ耳を見た花恋ちゃんは先輩の頭に乗ったクマ耳をみて、その流れで間先輩の頭の上を見ていた。


「3人共お揃いだね!」


 花恋ちゃんの言葉に含みはない。素直な感想だ。だけど私は不快に思っていた。

 なんたって先程まで迷惑行為を働いていた俺様(笑)とお揃いとは恥ずかしいにもほどがある。


「…まさかお前」


 しばし考え事をしている素振りを見せていた蓮司兄ちゃんが、今までの花恋ちゃんに対するストーカー行為に勘付いた様子だったが、デートに水を差したくなかったのであろう。彼はこの場で口には出さなかった。

 これ、花恋ちゃんにバレたら軽蔑ものだろうな…

 もうやめろよ、これ以上軽蔑されたくないだろ。


「あやめちゃん、なにかアトラクション乗った?」

「それがまだなんだ。13時40分からゴーストメリーの山賊屋敷に行く予定で、その前にクマ太郎のはちみつ地獄に行こうと思って…」


 ここにいるストーカー野郎のせいで何もできていないんですといいたいけど、武士の情けだ。ここは黙っておいてやる。


「なら一緒に行こうよ! いいですよね、蓮司さん♪」

「……別にいいけど」


 はしゃいだ様子の花恋ちゃんから腕に抱きつかれた。私はいいけど、そっちはいいのかな。蓮司兄ちゃん大学最後の旅行で来たんじゃ……。


「ダブルデートみたいだね」


 花恋ちゃんはお花のように笑む。美女の笑顔を見て、どこぞのストーカーのせいで荒んだ私の心が癒やされた。見たか、今の笑顔めっちゃ可愛くない? 流石元ヒロインだよね。私が先輩と蓮司兄ちゃんに同意を求めようと視線を向けると、彼らは間先輩を見ていた。

 ……そういえばダブルデートって二組のカップルが一緒にデートすることだよね? そうしたら、間先輩は一体どうなるんだろう……そもそもカウントされていない…?


 その後一緒にクマ太郎のはちみつ地獄を楽しんだ後、みんなで一緒に昼食を取った。予約の関係で途中から別々のアトラクションに向かったりしたけど、夜から始まるイルミネーションパレードのときは同じ場所に集合して観覧した。


 暗闇に光り輝くイルミネーション。キャラクターたちが踊る華やかなパレード。ロマンチックな雰囲気が演出されており、花恋ちゃんと蓮司兄ちゃんはくっついてそれを鑑賞していた。そして時折笑い合う2人を見た間先輩がひとりで涙を流しているのだが、そのうめき声がうるさい。


「う…ひぐ……かれぇん……」


 ズビズビと鼻を啜る音に私は真顔になる。

 私も先輩とロマンチックな空気に浸りたいけど、隣にいる間先輩のせいで無理そうである。


「! このうめき声!」


 不気味なうめき声にハッとした花恋ちゃんがパレードから視線を外して辺りに目を走らせるとすかさず蓮司兄ちゃんが彼女の肩を抱き寄せた。


「気のせいだよ。ほら花恋の好きなクマ太郎が手を振ってる」

「ホントだ! クマ太郎ー!」


 花恋ちゃんの興味はマスコットキャラのクマ太郎に向いたらしい。クマ太郎に熱い歓声を送っている。

 ……間先輩、ストーカーしてるときに仲睦まじい彼らを見て陰で泣いていたのかあんた……。

 イケメン俺様攻略対象と世の乙女たちをときめかせた男が鼻をすすりながら咽び泣く……いや、彼も生きた人間だってのはわかるんだけど、乙女ゲームというイメージという夢が崩壊しちゃうよねぇ……


 花恋ちゃんはクマ太郎に夢中だ。そして彼氏とのデートを満喫している。間先輩は眼中にない。日中も花恋ちゃんの周りをチョロチョロしていたが、蓮司兄ちゃんがガードしていたのと、彼女の前ではカッコつけていたからかあまり話せなかったらしい。


 ムカつくけど、今の姿を見ていると憐れみさえ生まれてきた……


「あの……ポップコーン食べます?」

「いらねーよ!」


 首から下げたポップコーンの容器を差し出すと、手で叩かれる。ポップコーンの粒が幾つか地面に散らばってしまった。食べ物を粗末にしちゃいけないんだぞ。

 ムッとしたが、この人はこういう人だとわかっていたので抑えられた。ムカつくけど。


「せっかくだし5人で写真撮らない?」


 間先輩は褒められた行為をしていないが、せめてものお土産だ。不自然に思われないように5人で並んで写真撮影を提案した。花恋ちゃんの隣に間先輩を並べてあげると、スタッフに頼んでスマホカメラで撮影してもらう。


「次は私と2人で撮ろう、あやめちゃん」


 花恋ちゃんはスマホを蓮司兄ちゃんに預けて私とのツーショット写真を希望した。パシャパシャ撮影している側で、間先輩がせわしなくスマホを操作しているのを、斜め後ろから亮介先輩がそれを訝しんでいる姿があった。



「送付された写真を、本橋とのツーショットに加工してたぞ」


 とこっそり先輩に教えられたときは、ガクッと脱力してしまった。

 …そういうところやぞ、間先輩よ…。


 なんか思っていたラブラブデートとは違ったが、それなりに楽しめたから良かった…のかな?


 それ以降ストーカーっぽい気配はなくなったと花恋ちゃんが言っていたので、……解決っちゃ解決したのであろう……。多分ね。

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