小話・亮介と波良の遭遇
時系列は本編終了後3月下旬くらい。
亮介の前で堂々とあやめに交際を申し込んでいた爽やかフツメン波良と亮介の遭遇
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「ねぇ、あんたってあやめちゃんの彼氏だよね?」
「……田端の兄弟子の…」
「波良だよ。あやめちゃんと最近どうなのー? この間あやめちゃんが言ってたよ? あんたは真面目だから絶対に手を出さないだろうって……男として見られてないんじゃないの?」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて波良という男は亮介に絡んできた。
いきなりの挑発に亮介はイラつきを隠すこともなく、波良を睨みつけた。
「…あやめは、男女交際をしたことがないからわからないだけだろう」
「いやいや違うね! ……俺だったらすぐに手を出してるのにあんたすごいよね〜」
「…相手の気持ちを考えずに? 随分軽薄だな」
波良の軽い発言…聞きようによっては最低な発言に亮介は顔をしかめる。
なぜならそれが自分の彼女に対する例え話だったからだ。
「男だったら普通でしょ。それともなに? あやめちゃんにそんな気起きないとか?」
「…君にそれを言う必要があるか?」
あやめは波良のことをよく知らないようであるが、この男、人の良さそうな顔をしていて中々癖があると踏んだ。
亮介は相手にしていられないと踵を返したが、後ろから波良が追撃してきた。
「俺さぁ、あやめちゃんは男慣れしてないから行けると思ってたんだよね。…もう少し会うのが早かったら俺の彼女になってたかもしれないよね?」
「………は?」
「だってそうでしょ? 自惚れじゃなければ俺はあやめちゃんに嫌われてないし、もしもあやめちゃんに好きな男がいなければそうなってたかもしれないじゃん」
亮介は進めていた足を止めると振り返って波良を睨んだ。
何が言いたいんだ。
そんな例え話をされてもあやめは自分の彼女である。亮介は相手の意図がわからずに沈黙していた。
「俺のこと軽いなぁとか思ってるかもしれないけど、あやめちゃんのこと本当タイプだったんだからな。料理上手で笑顔可愛いし。…あの化粧落とさせて自分にだけ素顔見せてくれたら良いなって思ってた」
「………」
「だから泣かすなよ。諦めてやったんだから」
「……わかっている」
「あんた、想いを口に出さないタイプでしょ。絶対その内あやめちゃんとの間で誤解生まれるんだから気をつけておいたほうが良いよ」
波良は亮介にそう言い残すと「じゃあね〜」と飄々とした挨拶をすると立ち去っていった。
亮介は負け惜しみを言い逃げされたような気分になっていたが、それと同時に波良という男は油断ならない男だなと感じていた。
あの口振りだと、チャンスさえあればあやめを掠め取られる可能性もある。
あやめ自身はしっかりしているつもりらしいが、自分からしてみれば向こう見ずで危なっかしいお人好しである。
いくら注意しても本人は後先考えずに爆心地へと突っ込んでいってしまうのだ。
そんな相手を好きになったので仕方がないのだが……
亮介は悩みの種が増えたことに深い溜め息を吐いて項垂れた。
「せんぱーい! おまたせしました〜!!」
「………」
「先輩? あれ、怒ってるんですか? …う゛っ」
待ち合わせぴったりの時間にやって来たあやめを見て、亮介はなんだかムカッとしたので彼女の頬を両手で挟んで軽く潰しておいた。
手を出さないのはお前のためにやってるのにこいつはまだ変な誤解をしているのか…そもそもなんであの男とそんな話をしているのかと今更になって嫉妬していた。
出会い頭に彼氏から両頬を潰され、形の崩れたアンパ○マンにされたあやめは訳も分からずに目を白黒させていた。
「なにひゅるんでふか…」
「…ムシャクシャとしたからつい」
「通り魔的犯行!?」
あやめは頬を抑えながらショックを受けたような顔をしていたが、すぐにハッとして亮介の腕に抱きついた。
「そうだ先輩! 私今日寄ってほしい店があるんですけど!」
「…また甘いものか?」
「違いますよ! 私そんな甘いものばかり食べてるわけじゃないんですよ!? コスメショップです! 買うものは決まってるのでそうお待たせはしません」
「……まだ鎧が必要なのか」
化粧品を買うとあやめが言うと、亮介は呆れた顔をした。
以前ほど化粧のことを口うるさく言わなくはなったものの、やっぱり気になるらしい。
「いいじゃないですか。先輩だって彼女には綺麗にしてもらったほうが嬉しいでしょ?」
「………そんなことしなくとも、か、かわ……」
ボソボソと何かを言った亮介。
だがここは外。人の喧騒でその言葉はかき消されてしまった。
「…え? すいません聞こえなかったんですけど、なんて言ったんですか?」
「………なんでもない」
「えーなんですかー」
その後、あやめが何度か聞き直したが、亮介が改めて言い直すこととはなく…
波良の読みは意外と当たっていて、お互いの言葉が足りずに数ヶ月後に二人はとある出来事が原因で破局の危機を迎えることになるのを今は誰も知らない。
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