先輩のはじめての田端家訪問【vs父】
「はじめまして。あやめさんとお付き合いさせて頂いてます、橘亮介と申します」
「あらあらあら! どうもご丁寧に〜あやめのことよろしくお願いします〜」
「………」
「父さん、睨むのやめて」
お付き合いを始めて数日経ったある日、亮介先輩が私の親に挨拶をしておきたいと言ってきた。
挨拶するのはまだ早い気がしたんだけど、先輩がそうしたいならいいかなと思って紹介がてらうちの親と会わせることにした。
それなら私も先輩のご両親に挨拶したほうが良いのかと質問したら、もうお祖父さんやお兄さんと顔見知りだからそれはおいおいで大丈夫と返された。ご両親が多忙だから時間作るのも難しいってのもあるらしい。
という訳で日曜日、両親が家にいる時間につれてきたんだけど、ニコニコ応対する母さんとは対称的に父さんは先輩を睨みつけていた。
「ゴメンね亮介君。男親ってこんなものなのよ〜。…ちょっと! 失礼でしょう! あやめとお付き合いしてる男の子なのよ! 愛想良くしたらどうなの」
「だって…」
「いえ、大丈夫です」
ベシッと父さんの背中を叩く母さん。
なんか父さんがブツブツ小さく何かを母さんに呟きながら悔しそうにしている。
父さんの態度最悪だな。もうちょっと印象良くしてよ!
私は父を牽制するように睨みつけていたのだが、隣に座る先輩は真剣な顔をして姿勢良く待機していた。
口をへの字にして、うううん…と唸っていた父さんは一度私を見て泣きそうに顔を歪め、その後先輩を見て顔をしかめる。
そして険しい表情はそのままにして父さんがようやく先輩に話しかけた。
…睨むのホントやめて。
「橘君…だったかな」
「はい」
「…学生だから…節度のある交際をだね……本当ならあやめにはまだ彼氏なんて早いと思うんだけど…」
「もうすぐ18なんだけど」
「あやめは黙ってなさい」
なんだよ。父さんの中で何歳なら交際OKなんだ。
いや、反対されても別れるわけがないんだけど。
先輩は父さんの態度に萎縮すること無く、その言葉にしっかり頷いた。
「それはもちろん。僕は真剣にあやめさんとお付き合いしていきたいと考えていますので彼女を大切にすることをお約束します」
「……! 先輩…」
真剣宣言をした先輩の誠実さに私はキュンとした。親の前なんてお構いなしに先輩へと熱い視線を送る。…あぁ、好き。
もう何でこんなにかっこいいの。辛い。
みてみて! この人私の彼氏なの! 真面目で優しくて誠実な素敵な人なの! と誰かに自慢したいくらいだ。いっそ親でもいい。自慢したい。
…もうね…超好き。
口には出してないけど顔で思っていることがバレバレだったらしい。先輩が私の視線に気づいてはにかんだ時、私はデレッと笑い返した。
先輩可愛い。…好き。
「あやめっお前もだぞ! お前も女の子として貞淑さを………こらっ聞いているのかあやめ! こっち見なさい!」
なにかを父さんが言ってるけど私には先輩しか見えてなかった。
父さんうるさいって言ったら父さんが涙目になってた。
母さんは先輩のことを気に入ってて、事あるごとにうちへ連れてこいと言ったり、私を送ってきてくれた時に夕飯に誘ったりしている。
母さんも私に好きな人がいるって前から勘付いていたらしくて、彼氏が出来たと話すと自分のことのように喜んでいたし、応援してくれている。
あくまで学業に影響のないようにとは言われているけどね。
父さんはやっぱり良い顔しなかったけど、母さんに「誰を連れてきても一緒なんだから気にしないでおきなさい」と言われたのでスルーしている。
先輩は父さんとも仲良くしたいみたいで会う度に挨拶ついでに話しかけたりしてる。父さんの反応はお察しなんだけどね。
もうひどいんだよ。先輩が話しかけるとぷんっと子供がそっぽ向くように顔背けて無視するの。ありえないでしょ?
あまりにも目に余る父さんの大人げない態度に母さんと私が注意してるんだけど、その後リビングで父さんがいじけてるのをたまに和真が生暖かく見つめていることがあったり。
和真は元々知っている先輩で、お世話になったこともある相手なので交際に異論はないようだ。
警戒心の強い犬がどんどん人に慣れていくが如く、父さんが先輩を認め、可愛がるようになるには長い年月がかかることになる。
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