Chapter.10 『国際警察機構 捜査官 キース・クーパーの場合』
――
普段のキースであれば、自分の上司のことをそう
国際指名手配の爆弾魔が、目と鼻の先のカジノに立て
つまり――こいつを挙げれば、大金星だ。
出世昇格間違いなし、正規のルートでこつこつ下働きをせずとも、一躍出世街道に躍り出ることができるのだ。そうなればもうアホ上司の下でアホ泥棒を追いかけて辺境を巡る必要もなくなるし、給料アップに特別ボーナスで常夏リゾートに別荘が建つ。世界を救ったヒーローとして有名誌のインタビューも引く手
――なのに、それなのに、あのボンクラ上司は。
キースは
問題のカジノは固く扉を閉ざしたままで、そしてその周囲には見事な包囲が出来上がっている。いくら名に聞こえた爆弾魔とて、この厳重な警戒の中を逃れることは不可能だろう。そして、問題はまさしくそこだった。
包囲しているのは警察官ではなく、この忌々しい民間企業の警備兵なのだ。
つまりこのままでは、犯人は間違いなく財閥の手に落ちる。我々が長年追い続けた大犯罪者がだ。おそらく最終的にはこちらに引き渡されることになるのだろうが、それでは
キースは決意した。最早
この州の、いやこの国の警察はあてにならない。かけるとすればその先はひとつだ。オペレータの事務的な対応に、氏名とコードを告げる。ほどなく電話は繋がった。
「ご苦労、クーパー捜査官。状況は聞いておる。君の判断を聞こう」
「副次官、
「……地元警察の協力は得られんか」
「申し訳ありません、力及ばず」
「いや、あの街では仕方あるまい。わかった、早急に派遣しよう。だが到着まで三時間はかかるぞ」
「ありがとうございます。それまではどうにか保たせますので――」
事務的に締めの挨拶を言おうとした刹那。電話口から、最も恐れていた言葉が聞こえた。
「ときに、バードマン捜査官からの連絡がないようだが。彼はどうしておる」
「バードマン捜査官は――現場の警備兵長と交渉しております。突入などされては一大事ですので、その工作のために」
「ふむ。では
その通りです、と答えるキースの背中に、一筋の汗が伝った。ことはもうただの越権行為では済まない、こうして明らかな嘘までついてしまったのだから。しかしあの爆弾魔なら、それでも充分おつりが来るほどの価値がある。要はこの先、なにも
とはいえ、ここで嘘がバレれば何もかも終わりなのだが――しかしその心配は、どうやら杞憂に終わった。
「まあ問題あるまい。よい結果を期待しておる」
「お任せください、必ずや逮捕してみせます。
頼むぞ、という一言を区切りに、通話は切れた。
キースは再び、視線をカジノへと転じた。相変わらずの
問題は、この均衡がいつまで保つか、ということだ。多少の小競り合いなら問題はないが、しかし一斉に突入でもされて、観念した犯人に自爆などされては元も子もない。不安なのは、警備兵側――というよりも、あの社長だ。
彼はこの爆発に随分動揺している様子だった。しかしもちろん現場に乗り込むような真似はせず、それどころか一目散に本社の方へと向かっていった。根性なしなのはありがたいが、しかしなにしろあの性格だ、いつ
わざわざ呼び出した対テロ用の特殊部隊を、まさか手ぶらでトンボ返りさせるわけにもいかない。まして嘘までついているのだ、もはやただで済む状況ではない。
キースは考えた。この状況で、まず真っ先に排除しなくてはいけない
群衆の輪を駆け抜けて、キースは道路の端に
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