第11話 工藤勇作の力
飲む呑む。
と言いつつも、桐島に言われた一言が気になり後を追って来てしまった。
「おー。なんだよ。ここに居たのか」
尾行していたのがバレたかと思い、一瞬、たじろいでしまった。
桐島が声を掛けたのは私ではなく、桟橋の上で星を見上げている工藤だった。
「いやー。お前も災難だな。あんな暴力女に絡まれて」
「......」
あいつ、私を暴力女とか言った?
後で殺そう。
うん、そうしよう。
隠れている大木の下で、私は桐島の滅殺を誓った。
「おー。この世界にも星があるんだな。そういや、この世界に来てから夜空を見上げる事なんてなかったわ」
「......」
桐島は根気強く工藤に話しかけるが、工藤はやはり無言を貫く。
やっぱりダメか。
同じ転生者である桐島には心を開いてくれるのでは?
と期待したのだけれど......。
落胆していると、「ほ、星はいい。何も喋らないから」と蚊の鳴くような声が聞こえてきたのを私は聞き逃さなかった。
「何だよ。やっぱり、お前喋れるじゃん。でも、第一声の内容がそれってテンション低すぎだろ」
桐島は工藤を茶化すような言葉を付け、笑う。
「う、うるさい。じゃ、じゃあ、何て言えば良かった」
「え? そうだな。異世界サイコー!!! エルフサイコー!!! とか?」
「......」
確かに、桐島のテンションは高めだが同時に馬鹿さ加減が凄い。
工藤に至っては呆れてしまったのか、再び、黙ってしまった。
「お前さー。異世界だよ? もっと、楽しんでも良くないか? 誰とも話さないってつまんねーだろ?」
「べ、別に俺の勝手だろ」
「いや、ダメだ」
「あ、え? 俺の勝手だろうが!」
「そうだな。でも、異世界を楽しんでいないお前を見ていると正直、イライラする」
「は、はぁ?」
桐島の発言で、工藤は混乱している。
それもそうだ、桐島の発言は第三者の私から見てもあまりも一方的過ぎる。
「だってそうだろ! 皆でカラオケ行ったのに、一人だけ一曲も歌わないのとかアリかよ!」
「あ? 別に本人の自由だろ」
「一緒だ! お前だって、テテスから貰った力みたいのあって、他の連中よりは少しは強いんだろ!? だったら、大手を振って堂々としろよ!」
おいおい。
大丈夫か桐島?
そんなに工藤の感情を逆なでしなくても......。
「う、うるさい! お、お前には関係ないだろ!」
「だから! 関係あるって! お前を見ているとイライラするから早う直せ!」
「か、勝手な事い、言うな!!!」
工藤が桐島に対して嫌悪感を露わにした瞬間、何かに弾かれるように桐島が後方に吹き飛ばれ、桐島は大の字で大木に打ち付けられた。
「き、桐島!?」
守護天使は人間と似たような姿形だが身体機能・能力は人間を凌駕する。その守護天使である私の反射神経を持ってしても飛ばされる桐島を目で追う事しか出来なかった。
「いったぁ~」
桐島に駆け寄ると桐島は打ち付けられた腰をさすっている。
「あんた大丈夫なの!?」
「ん? テテス? あぁ、なんとか」
「なんとかって......」
吹き飛ばされたスピードから桐島が受けた衝撃は相当なものだったはずだ。
普通の人間であればバラバラ死体になっていてもおかしくないレベル。
しかし、桐島は平然としており、出血や骨折などの類の異常は見られず、痛みを感じてはいるがいたって正常だ。
「お、俺は悪くないぞ! そ、そいつがしつこいから!」
工藤は額に大量の汗を掻きながらも自身の正当性を主張している。
確かに、桐島の絡みは些かしつこいものだったが殺されるようなレベルではない。
桐島が何故軽傷で済んでいるか不明だが、攻撃を受けたのが桐島でなければ確実に死んでいた話だ。
「だからと言ってむやみに能力を使って良い訳じゃないでしょ! 一歩間違えればこいつ死んでいたわよ!」
「ぐっ......!」
”死んでいた”
という単語を耳にし、工藤の顔は急に青ざめた。
「あっ! ちょっと!」
自身の行った行いのことの大きさを認識し、耐えられえなくなってしまったのか工藤は踵を返し、闇の中に消えた。
桐島に謝る事もせず。
工藤の後を追おうとすると、桐島が私の腕を掴み止める。
「いい。追わなくて」
「でも! あのままあいつを放っておくことも出来ないわよ!」
折角、見付けた転生者だ。
二度探すのは些か面倒。
「あいつは逃げないよ」
「は?」
どうしてそんな事が言えるのか。
私は桐島が適当に言っているとしか思えず、眉間には自然とシワが寄った。
「あいつの攻撃を受けて、一瞬、あいつの感情が俺の中に流れ込んできたんだ」
「は? 感情が流れ込む?」
「ああ。俺の能力は脳に流れる微弱な電気を操ったり、感じたりできるだろ? それの応用で触れ合うと他人の考えていることが分かるみたいなんだなぁ~」
分かるみたい。
と表現したのは、桐島が能力を付与されて間もないから自信がないのだろう。
桐島は守護天使である私を命令一つで緊縛させる力を持つ。
「で、工藤の頭の中はどうなっていたのよ」
単純な好奇心でそう尋ねた。
「ん~。ぐちゃぐちゃだった」
「は? 意味わかんないだけど」
「ああ。俺も分からんかった。テテスにさっき触れたら俺を心配しているのが分かったし、エルフ達に触れても頭の中は読めた。でも、工藤に至っては何も分からなかったんだ」
桐島は腕を掴み、天を見上げた。
「色んな事を考えていたって事?」
「ああ。それも一度に数個の事を考えていた。あいつ、多分、一つ以上の事を同時に考える力を持っているぞ」
「??? どういう事それって?」
「スポーツで例えるとボールを持ちながら目の前のディフェンスの動きも読んで、コート全体の動きも把握するようなもんかな」
「へえー。でも、その力であんたを吹き飛ばす事は出来ないじゃない?」
「ん? テテス、勘違いしているだろ。同時思考は工藤の能力じゃないぞ。元々持っていた力だろう」
「元々持っていたって.......。そんな凄い力持っていたのに自殺したの?」
「まぁ、色々あるんだろうよ。凄い奴には凄い奴なりの悩みがさ。凡人の俺とお前では分からん悩みだ」
「おい。サラッと私も凡人に入れるな。殺すぞ」
「ちょっと! マジなトーンで言うなよ! 冗談だって!」
「まあ、いいわ。で、工藤はここに残る事も考えていたの?」
「ああ。多分、色々考え過ぎて現状維持という結論に至ると思う」
色々な事を考える人は結局何もしない。何も出来ない。
ってパターンは多いから桐島の言っていることは的を射ている。
それに、今から工藤の後を追ってもこの暗闇じゃ追いつけない。
工藤が戻ってこなかったら朝一で探せばいいか。
「それにしても、テテスが俺を心配してくれているとは思わなかった。まさか、お前、俺の事______」
桐島が気持ち悪い発言をしようとした直後、私は桐島の口を掴み。
「そんな訳あるわけないでしょ? 聞くだけでも耳が腐りそうだからそこから先は言うな。一生、チューブで食事を摂る事になるわよ」
と
◾️
エルフの村内部。
闇で覆われた林の中で聞き耳を立てている黒い影が一つ。
「ふーん。良い事思い付いちゃった♪」
黒い影は嬉々とした声で呟き、闇夜に身を隠した。
異世界でスローライフしている奴をとりあえず殴る話 おっぱな @ottupana
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