第10話 歓談
「ふいー。食った食った。久々に飯らしい飯食べたよ!」
「あ!? 私が、作ってやっていただろ!? どういう意味!?」
「いや、どういう意味も何も......。テテスの料理って炒めて塩をまぶすだけなんだもん......」
「いーじゃない! シンプルで美味しいでしょ!?」
「シンプル過ぎるって言うか、言っちゃ悪いが手抜き感がスゴイというか...」
「あんた、何もしないのによくそんな事言えたわね!?」
桐島をぶっ叩こうと思い、空になった皿を振り上げた所、エルフの一人に止められる。
「テテスさん! まぁ、抑えて抑えて!」
「わ、私が抑えるの!? 私はね! 天使なのよ! 天使の私が飯を作ってあげたのに文句を言われる筋合いはないのに!」
「ま、まぁ、そうですね。私もテテスさんの意見は正しいと思います。でも、暴力はちょっと...」
「暴力じゃないと解決しない事もあるわ! 見てよ! こいつのこの態度! 食ったら寝る! ブタじゃねぇかぁぁぁ!!!」
私が怒り心頭にも関わらず、問題の中心である桐島は横になって寝てしまう。
それが腹立たしく、頭が吹っ飛びそうだった。
「嬢ちゃんの言う事は分かるだえ。人の家に押入り、飯を要求し、そして、ご馳走さまも言わずに寝る。こんな非常識な奴は初めて会ったえ」
「でしょー! そもそもね! こいつは礼儀ってもんが備わってないのよ!」
「あぁ。分かる。分かるだえ。こんなに分かりやすい程のクズは数百年ぶりだえ」
悪口というものは人と人の距離を一気に縮める事が出来るコミュニケーション界の飛び道具である。
最近では、エセ偽善者や平等主義者が世の中にはびこり、他者を批判してはいけない風潮だが適度で適切な他者批判はあった方が良い。
私とエルフの婆さんは酒のようなものを飲みながら、桐島についての悪口を言いつづけた。
「しっかし、桐島もそうだけど、あんた!」
私の怒りは留まる事を知らず、部屋の隅っこで体操座りを続ける工藤を次の標的に選ぶ。
「......」
工藤はまたしても無視を貫く。
ここまで来ると怒りを通り越し、面白いとさえ思えてきた。
「あんたねー。口が聞けないのか!?」
「....」
「ほーう。あんた本当、度胸あるわ。しかし、その度胸がどこまで続くかしらねー」
立ち上がり、工藤の元まで歩み寄り、見下す。
とりあえず足を踏んづけてみるが、声も出す事も顔を歪ませる事もしない。
「ま、この程度じゃだめねぇー。アッハハ! おい! 婆さん! 何か良い物ないのか!?」
「うーん。今、手元にあるのはダガーナイフくらいしかないだえ」
「まー、それでいいわ。早く頂戴!」
「えーっと。ちょっと待つだえ」
長老はオモチャ箱のようなものを漁り、エルフたちは私を止めようとする。
「長老様! テテスさん! やめましょうよ!」
「そ、そうです! 二人とも飲み過ぎですよ!」
「わーん! お家帰りたい!」
「だーらっしゃい!」
「お! あったあった! これだえ!」
キラリと光るダガーナイフを手に取る。
さすがにこれをブッ刺せば無口な工藤も悲鳴をあげるだろう。
なに、本当に刺す気はない。
脅しよ。脅し。寸止めすればいいんでしょ?
「......」
「いつまで無口を貫けるかしらねー?」
「......」
「シカトぶっこいてんじゃ______あ」
あまりにも酒を飲み過ぎ、足元がおぼつかない状態だったからか、私はふらつき手に持っていたダガーナイフとともに工藤に倒れ込む。
このままいけば工藤の脳天にダガーナイフを刺してしまう。
私は怖くなり、目を閉じると。
「ロック」
「うっ! き、桐島......」
工藤にダガーナイフが刺さる寸前。
桐島の能力が発動し、間一髪で止まった。
「テテス。お前、やり過ぎだぞ」
「ぐっ。だ、だって! こいつが何も喋らないから!」
「うーん。まぁな。工藤。お前もだんまりは良くないと思うぞ」
桐島が工藤を諭すように話を振る。
すると、今まで地蔵のように微動だにしなかった工藤の口元が微かに動き。
「お、俺だって......。俺だって」
「あ!? なんだって!? もっと、しっかり喋りなさいよ! 男でしょ!」
工藤の態度を見ているとイライラする。
私は、工藤が喋り終わる前に言葉を荒げた。
すると、工藤はいたたまれなくなったのか、そのまま外に飛び出してしまう。
「あー。何やってんだよ。テテス」
「私のせい!? あいつがいけないのよ!」
「あいつもだが、お前にも問題はあるぞ」
「はあっ!? 何!? 説教!? 転生者のお前が説教するんじゃない! 知っているわよ! あんた自殺したんでしょ!? 自分から命を諦めるような弱い奴に説教なんて受けたくないわよ!」
「......そうだな。俺はお前に説教する資格なんかないな」
初めて見る桐島の悲しそうな表情。
頭に血が上っていたのか、私は言ってはいけない事を言ってしまった。
死人は色々な死に方をし、天界に来る。
事故死、病死、他殺、自殺などなど。
人それぞれだが、死の瞬間というのは誰しも思い出したくない過去である。
「あ......。その......」
すぐに謝ればいいのに、変なプライドが邪魔をして言葉が出てこない。
相手を傷付ける言葉ならすぐに出てくるのに、その傷を癒すような言葉を発する事に躊躇してしまう自分がいた。
「アンロック」
「いたっ」
唐突に桐島を能力を解除し、私は顎から床に落ちた。
「工藤を追いかける」
「私も行くわ」
「いや、いい。俺一人で行くから待ってろ」
そう言うと、桐島はその場を去って行った。
「テテスさん。行かなくてもいいんですか?」
心配そうな顔でテテス尋ねる。
「いいのよ! さぁさぁ! 今日は朝まで飲むわよ!」
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