第9話 エルフの村と機関銃

 ______エルフの村______


 森を歩くこと約1時間。

 何の変哲もない茂みの中にエルフの村が現れる。

 何でも、エルフは美しい容姿からハンターなどに狙われる事が多く、小規模な村はこうやって魔法の力で見えないようにしているらしい。

 エルフは力は弱いが、魔法や医療への見識が深く、争いを好まない性格。

 コソコソと逃げ回るのような生活が彼らにとってはとても合理的なのなのだろう。


「見て! エルフ! あっちにも!」


「ったく、うるさいわね! そんなの見れば分かるわよ!」


 エルフ達は木の上に家を作り、木と木の間に太い木のツルを巻き、それを橋のようにして木と木の間を行き来している。

 白と緑の割烹着のような民族衣装に身を包む者もいれば、胸元と腰にだけ布を巻き、随分と露出度が高い女性もチラホラとおり、服装の統一感が無いのが不思議だった。


「ふふふ。もしかして、エルフを見るのは初めてですか?」


 はしゃぐ桐島を見て、ユピンがこちらを振り向く。


「あぁ! 初めてだ! あんた達もそうだが、みんな綺麗だな!」


「あら。お上手ですねー」

「ま、まぁ、私達が一番きれいだけどね!」


 桐島がお世辞? いや、本音か。

 を言った事でㇾテル、ユスコも反応した。

 緑の髪の毛の奴がユピン。

 金色の髪の毛がㇾテル、赤がユスコ。

 名前が分からないと不便なので先程、お互いに自己紹介をした。


 エルフというのは人前に滅多に姿を現さない種族だがどうやら好奇心は旺盛なようだ。

 初めて見る人間の桐島に色々と質問もしていたし、守護天使である私にも色々と聞いてきた。

 桐島には「転生者である事はバレたら面倒だから言うな」と忠告しておいたのでそこは流石に言わなかった。

「高校生の時、応援団に入部してさ~」とギリギリアウトな話をしていたが、エルフ達は「高校生? 応援団?」と理解していなさそうだったのでセーフにしておこう。


「工藤優作! ここは天国だなぁ!」


「......」


 桐島が工藤優作に声を掛けるが仏頂面のまま。

 先程から誰が話しかけてもこうなので、私は話し掛ける事を止めた。

 確か、事前に取得していたデータでは彼は中学1年の夏~28歳まで引きこもり、そのまま自室で首を吊って死んだと書いてあった。

 能力値や外見は転生した際にある程度変える事は出来るが性格までは難しい。

 転生者は異世界において最上級の力を持ってその地に送りこまれる。

 臆病者、人見知りでも力を持つと性格が変わるものだが生前の性格から変わらない者もいる。

 恐らく、工藤は後者。

 桐島の場合はコミュニケーションに問題はないが、この工藤優作という人間は難アリ。

 このような性格の転生者は転生先でも他者との交流を避ける傾向にあり、私達守護天使の手を煩わせる。

 転生者を選別する部署の天使はくそまじめな奴等が多く、神から下された”不幸だった者”という条件だけでしか転生者を選んでいない。

 もっと、人間性や社交性なども見るべき。

 結局、シワ寄せはその下である守護天使に来る事を上の天使は分かっていない。


「ここです。私、長老様に言ってきますね」


 ユスコは長老に会えるのが嬉しいのか、快活そうな笑顔で村の中でも一番大きな木造の建物に入っていった。


「そういえば、エルフって長寿の種族なんだよな?」


「ええ。そうですね。因みに、私が200歳。ㇾテルが150歳。ユスコが180歳です」


「ほえ~。すげぇな。俺なんか28歳だからまだまだガキじゃねえか」


 まあ、容姿は35歳くらいのオッサンだけどな。


「ふふふ。そうね。僕ちゃん」


「ま、ママ!!!」


 桐島はそう言うと、ユピンに抱きつこうとし、「止めなさい」と私は、桐島の襟を掴んで止めた。


「大人なんだからもうちょっと落ち着きなさい」


「あんだよ! テテス! 別にもう死人なんだから大人も子供も関係ないだろ! 俺は好きなように生きるんだよ」


「はいはい。いいけど、節度くらいはもちなさい」


 桐島という人間は本当に掴み何処がない。

 子供のような行動や言動をするくせに、急に真面目な事を言ったりする。

 まだ、自身が転生者になったという事実に向き合いきれていないのかもしれない。


「ホッホホッ。随分と家の外が騒がしいと思い、顔を覗かせてみれば見慣れない童<わらべ>の顔が3つとな」


「!?」


 まるで童話の語り部のような優しい口調で小屋の中から姿を現した老婆。

 顔面が梅干しのようにシワくちゃで銀色の髪をツインテールのように編んでいる。

 文字だけの情報で言えば、この老婆はどこにでもいる普通の老婆だ。

 だが、私はこの老婆の姿に驚きを隠せなかった。


「おやおや。お嬢さん。どうしたんだい? エルフ族の年寄りを見るのは初めてかな?」


「い、いえ、それもそうですが.......」


 エルフ族は老化が遅い。

 200〜300歳でも容姿は人間の10代20代のままだ。

 老婆という事はそれだけ年齢を重ねているということ。

 数千年は生きていないとここまで年老いた姿にならないのだろう。

 老婆のエルフが実在する事実にも驚いたが、それは老婆に言われてから気付いた。

 それよりも先、私は老婆の右手に目線が行った。


「婆さん。その右手どうしたんだ?」


「......」


 ごくりと私は生唾を飲み、辺りに緊張が走る。


「このガトリングの事かい?」


「あぁ」


 老婆の右手は完全に銃火器であった。

 右手に銃火器を持っている訳ではなく、右手が完全に銃火器なのだ。

 よぼよぼな老婆の右手が8連射式のガトリングになっていれば目に入らない訳がない。


「長く生きていると色々あるんさね。そりゃ、右手がガトリングになる事だってあるや......」


「......」


 ん?

 続きは?

 いくら待っても老婆の口から具体的なエピソードが語られる事はなく、語る素振りも見せない。

 まさか、こいつ、こんな興味深い話を『長く生きてれば色々ある』の一括りで纏める気!?


「おい。婆さん......」


 お。

 流石、桐島。

 やっぱり、説明不足よね。

 あんたも色々聞きたいよね。


「そんな事より何か飯くれ、飯。腹が減ってしょうがないんだ」


 えー!?

 マジで!?

 ガトリングは!?


 桐島にとってガトリング<飯

 という格付だったらしく、桐島の興味はガトリングから切り離されたようだった。


「ふふ。礼儀もへったくれもない男だ。だが、それが良い。今日はゆっくりしてきな」


「おう! そうさせてもらうぜ!」


 そう言うと、桐島は老婆の家に入ろうとし、老婆に止められる。


「ちょっと! ちょっと! あんた、どこでゆっくりしていく気だえ!?」


「え? この家で」


「いや! ここ、私の家だよ! あんた達の泊まる場所はあそこだえ!」


 老婆は100mほど離れた場所にある小ぶりな木造家屋を指さす。


「えー! 俺、ここがいいんだけど」


「ダメだえ! ここはエルフ以外入っちゃいけない神聖な______あ!」


 桐島は老婆の制止を振り切り、そのまま中に入って行き、抵抗を続けていた老婆も、桐島の強引さに呆れたのか、「まぁ、もういいか」と早々に現実を受け入れてしまった。


「長老様、本当に大丈夫なのですか?」


 老婆は怒ってないだろうか。

 私は、ご機嫌を伺うように尋ねると。


「まぁ、神聖な場所って私が勝手に付けただけだえ。さ、あんた達も入りな」


 と手招きしてくれた。


 神聖な場所にも関わらず、入って良いと許可出すの早いな。

 と中途半端な設定に首を傾げながら、私と工藤もエルフの婆さんの家に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る