ザ・キング・オブ・ヒーローズⅣ ~飢狼達の遥かなる戦い~

真賀田デニム

ザ・キング・オブ・ヒーローズⅣ ~飢狼達の遥かなる戦い~


「あと五分で最後だ」


 彼女はしわがれ声でそう言った。

 

(五分か。いいだろう)


 俺は、眼前で余裕の表情を浮かべる男をキッと見据える。

 

 ギース・フルフラウス――。

 冥府を統べる帝王にして最凶最悪の魔剣士。

 そして惑星ネールを恐怖に陥れる諸悪の根源だ。


 数多の勇者がフルフラウスに勝負を挑み、散っていったのを俺は知っている。

 しかし俺は、彼らと同じてつを踏まない自信があった。

 

「俺はほかの奴らとは違う。俺が貴様を大地にひれ伏させてやるぜ、行くぞっ!」


 俺は先手必勝で猛攻撃へと打って出る。

 高速の払い、音速の突き、神速の複合連撃――。

 

 しかし、さすがはフルフラウス。

 余裕の表情は崩さずに俺の攻撃の全てを避けた。


『この程度で私とやろうとは。ふん、千年早い。――“灼熱の地の轟炎ジブチ・エクスプロージョン”ッ!』


 剣を持つ右手を振り上げるフルフラウス。

 すると、灼熱のような熱風が襲い掛かってきた。


「ぐはぁっ。くそ、やっぱり強いっ。だが俺は負けはしないッ!」


 フルフラウスの弱点は知っている。

 それは冷気だ。

 そして俺には氷属性の超必殺技がある。

 だからこその自信――だからこその五分――ッ。


 俺はフルフラウスの攻撃の隙をついて、後方へ飛び退くと剣を構える。


「食らえ、フルフラウスっ! これが俺のアルティメットウェポンだ。はああああぁぁぁぁ……“南極の白き咆哮ホワイトブレス・オブ・アンターティカ”ッ!!」


 振り下ろした剣から無数の氷の刃が飛び出す。


『なにっ!?』

 

 驚愕の表情を浮かべるフルフラウスを、その無数の刃が切り刻む。

 しかしフルフラウスは倒れない。

 倒れないどころか、その顔に不屈の闘志を浮かべて再び剣を振り上げた。


“ホワイトブレス・オブ・アンターティカ”と“ジブチ・エクスプロ―ジョン”がぶつかり合い、お互いを飲込もうとする。

 しかし力の拮抗は、やがて両者の技を同時に霧散させた。


『く……っ!』


 膝を付き、攻撃の姿勢を解除するフルフラウス。

 一方、俺は攻撃の余力を残している。

 

 千載一遇のチャンス――。


「終わりだっ、フルフラウスッ! この俺様の剣の錆となるがいいッ!!」


 俺は大地を蹴って走り出す。

 そしてフルフラウスに向けて剣を振り下ろした。



 

 ぶちんっ。



 

 振り下ろしたところで、が真っ暗になった。

 俺の操作していた自キャラも、真のラスボスであるフルフラウスも暗闇に飲み込まれた。


「えっ? うそっ! えっ? おばちゃんッ!?」


 俺は背後に顔を向けて駄菓子屋店主のおばちゃんを見る。


「なんだい? 五分経ったから電源落としたんだよ」


「ち、ちょっと待ってくれよっ! あと一撃でフルフラウス倒せたのに、少しくらい待ってくれてもいいじゃねーかよっ!」


「黙りな。駄菓子の一つも買わないで五十円で粘る奴に与える時間なんてこれっぽっちもないんだよ。大体、お前独り言うるさい。ほら、店じまいだよ。早く帰りな。しっしっ」


「そ、そんなぁぁぁ」


 

 九十年代、僕らにとって駄菓子屋は小さなゲームセンターだった。

 これはそんな駄菓子屋で起きた一つの事件である。




 了

 

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ザ・キング・オブ・ヒーローズⅣ ~飢狼達の遥かなる戦い~ 真賀田デニム @yotuharu

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