第6.24話 オールコートプレス

 エンドラインに立つ中野から、貴美子はボールを受け取った。


 ファウルをしなかった中野の判断は正しい。

 ただ、できれば、その前の段階で、あんなに簡単に面取りをされて、負けポジションにならないでほしい。


 まぁ、いい。

 今は、集中だ。


 終盤のオールコートプレス。

 ここでのボールキープは、Gガード陣の最も重大な仕事。

 残り22秒、しっかりとボール持ち続けて、このゲームは終わりだ。

 小野を背にしてボールを受け取り、貴美子はコートの状況を確認する。

 一応、マンツーマンを崩していない。

 少なくとも小野を抜けば、フロントコートにはボールを運べる。

 小野の3Pシュートは確かにすごい。

 だけど、


「1on1で負けたことないんだよな」

「うっさいです。さっさと来なさい」


 相変わらず口がわるい。

 貴美子は、ターンして、ボールを前に突き出した。

 小野が機敏に反応する。

 だが、止めるには至らない。


 というか1on1でディフェンスがオフェンスのドライブを止めるとか無理だ。

 このままフロントコートへ。

 が、


「1on1なわけあるか!」


 中野のディフェンスを放棄したナツが、貴美子のディフェンスにまわった。


 ダブルチーム。


 そりゃ、この時間なら、そうだろう。

 リスクをとってでも、ボールを奪いにいく時間帯だ。

 終盤のプレスディフェンスの怖さを貴美子はよく知っている。

 逆に、そのリスクもよく理解していた。


 1人に2人のディフェンスがついている。

 つまり、1人がフリー。

 そこをつけば、簡単にクリアできる。


 だけど、中野か。

 たしかにフリーではあるが、オールコートプレス時に、バックコートでCの中野にボールをもたせるのは不安だ。


 ていうか、CがPGのディフェンスしに来んなよ!


 小野一人ならばなんとかなるが、ナツとのダブルチームでは、さすがに抜けない。


「ギン!」


 だから、貴美子は、銀島を呼んだ。

 ただ呼ぶまでもなく、銀島は見える位置まで来ていた。

 カトリーナの前に体を入れて、ポストプレーのように面取りしている。

 小野とナツの間から、銀島にパスを出す。


 よし、と貴美子は、拳を握る。

 あの位置なら、ギンはカトリーナを抜ける。

 そうすれば、ボールはフロントコートへ。


 アウトナンバーだから点を取るもよし。

 貴美子の到来を待つもよし。


 どちらにしろ、白藤の勝ちだ。

 ふっ、と思わず肩の力が抜けた。

 ……そのときだった。


「え? 何で!?」


 貴美子は、ありえないものを見て、


「ギン! 待て!」


 と伝えたが、遅かった。


 ギンは右にターンする。

 カトリーナを振り切ろうと、なるべく素早く。


 けれども、そこには、


「コースを塞ぐ」


 いるはずのないディフェンス、羊雲5番、七竈流々香が立っていた。


 勢い止まらなかった銀島。

 倒れる七竈。


 

 そして、高らかに鳴る笛の音。




「オフェンス、チャージング! 赤5番!」


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