第6.23話 選択

 リバウンドで勝つしかない。


 銀島がシュートを外す方に賭ける。

 入ったら、入ったで、そのとき考える。


 まずは、リバウンド。


 入っても、まだ逆転の目はあるが、リバウンドに負けたら、完全終了する。

 それこそ、試合終了を待たずして、時間的にチェックメイトである。

 フリースローラインの前に立つ銀島。

 ゴールを囲むようにして引かれる長方形のライン。

 そのライン上に、羊雲と白藤のプレイヤーが交互に立つ。

 いちばんゴールに近い位置に、羊雲のプレイヤー、凪月とカトリーナが向かい合うように陣取っている。

 

 基本的に、フリースロー時には、位置関係的に、シューターを含まないチームの方が、リバウンドに有利。

 順当にいけば負けることはない。

 それにシューターが銀島なら、なおさらだ。

 あとは、銀島が外してくれるのを期待するだけ。


 審判からボールを渡されると、銀島はボールを一度つく。

 同時にボールの向きを整える。

 息を吐いて、胸に構える。

 女子には珍しいワンハンド。

 右手を掲げ、左手を添える。

 ここまでの流れに淀みはなく、おそらくルーティーン。

 そして、膝から上がり、腕が伸びて、掌を翻した。


 同時に、凪月達は動く。

 ステップを踏み、中野の前に足を入れ、しっかりと背中で押さえつける。

 ボールはアーチを描く。

 リングへとボールは向かい、

 ガコン、とリングに二度弾かれ、そして、


 落ちた!


 落下位置は、凪月と中野の真上。

 同時に飛べば、身長の高い中野の方が有利。

 だが、凪月は体重を中野側にかけて跳ばせない。

 主導権は、凪月にある。

 ちょうど、届く位置まで落下したところで、凪月は跳んだ。

 中野は、タイミングが遅れて間に合わない。


 よし! リバウンドは勝った!


 と思ったところで、もう一本の手が迫る。


 銀島か!


 シューターが飛び込んでくるのかよ。

 シューターへのスクリーンアウトは、流々香の担当だが。

 さすがにできなかったか。


 くそっ! だからって、飛び込んでくるかよ、普通!


 ボールに触れたのは、ほぼ同時。

 だが、高さを気にして、触れるので精いっぱいの凪月は、捕球が難しい。

 このままだと銀島に捕られるか?

 だとしたら、


「おらぁ!」


 凪月はボールを思いっきり弾いた。

 ボールはコーナーへ。


 ボールが落ちて、凪月が跳んだのならば、


 そこにいるだろ!


 でたらめに転がったボールは、


「雑!」


 小町になんとか捕球された。

 

 タイムは、プレイヤーがボールに触れた瞬間から、進み始める。

 残り34秒 。


「速攻!」


 ここからタイムアタックだ。

 とにかく走るしかねぇ。


 まずは、カトリーナが、中央へと走り込み、ボールを受け取る。

 お決まりのパターン。

 そこから進々にパスを出そうとして、制止。

 既にピックアップ済み。

 カトリーナがドリブルで、フロントコートへと運び、そのまま右ウィングへ。

 中央を見据え、そのコースを流々香が通る。

 流々香は右サイドのコーナーへ。

 同じコースを、凪月が通る。

 ここは無理にでも一度中にボールを入れるべき。

 凪月は、中野を背にしてダックイン。


「キャシー!」

「ほいさ!」


 ボールを受け取り、ローポスト、Cポジション。

 絶好の位置だが、道後は反応しない、か。

 カバーにくれば小町にボールをまわしたいが。

 いや、もう一度攻められる可能性に期待するよりも、やはり、ここで小町の3Pシュートに望みをかけるべきだろう。

 凪月が小町に視線を送る。

 が、


「ナツ!」


 小町は首を振った。

 ほんのコンマ一秒、凪月は悩み、それから、その仕草の意味を理解する。


 マジかぁ。


 凪月は、小町にボールを返すフェイクを挟み、左にターンした。

 中野は少し遅れて反応する。

 シュートフェイク。

 からの、右ステップ。

 そして、両足で踏み切る。


 当然ながら、むりに抑えにはこなかった。

 残り時間と点差から考えて、2Pシュートへのファウルはしたくない。

 ゆえに、シュートは決まる。

 ただし、2Pシュート。



 羊雲チーム 32 vs 33 白藤チーム   2Q 残り1/4分



 つまり。

 残り22秒、1点差、白藤ボール。


 ショットクロック24秒を切った絶望的な時間と点差が構築されていた。


 こうなったら勝てないと、凪月は思った。

 しかし、羊雲のPGはそう判断しなかった。


 この状況でいいから、点を決めろ。


 小町は、そう目で言った。

 おそらく、道後のマークが外れていない状態での3Pシュートが決まる確率と、もう一度、シュートチャンスが来る確率を天秤にかけた結果であろう。

 さすが、うちのPGは茨の道を進むのが好きだな。


「ちっ! バスケットカウントバスカンじゃないんですか!」


 違ったぁ!


 ゴール下でファウルもらってバスケットカウントもらってこいって意味だった!

 ごめんなさーい!

 

 凪月は心の中で謝りつつも、そんな時間はないと、すぐさま切り替える。

 

「ディフェンス! 前から当たれ!」


 何と言おうが、最終局面だ。 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る