第6.22話 最悪

「すまん」


 凪月は、誰にともなく謝った。


 欲張った。


 あわよくば、1点差の状態、1本で逆転の状態を維持できるか、と欲を出した。

 2点取られて、3点差になっても、小町がいるのだから、3Pシュート1本で追いつけた。

 けれども、ここでフリースローを入れられると、4点差。

 追いつくのに、絶対にシュートが2本必要。

 ただ、それは時間が許してくれない。

 凪月はタイマーを見る。

 

 残り、35秒。


 こちらが11秒以内にシュートを決めたとして、白藤が次のショットクロック24秒を使い切れば、それで試合終了。


 羊雲の負けだ。


 勝たせてやるとか、偉そうなことを言っておきながら、まさか、自分がゲームを壊してしまうなんて。

 凪月は、思わず頭を抱えた。

 そんなとき、


無問題モーマンタイ!」


 パンと背中を叩かれた。

 顔をあげると、カトリーナがにこりと笑っていた。


「無問題! ここからどすえ」


 なぜか、えせ京都弁で、励ますカトリーナだったが、その言葉には不思議と気分を明るくさせる力があった。


「そうですよ。辛気臭い顔しないでください」


 続けて、小町が冷たく言い放つ。


「俯いたら勝てるんですか?」

「いや」

「じゃ、顔をあげてください。あなた勝つ気ないんですか?」


 ふん、と小町はそっぽを向く。

 その仕草を見て、凪月は一つ息を吐く。


 そりゃ、そうだ。

 有名な言葉があるじゃないか。

 諦めたらそこで試合終了だ。

 まだ、試合は終わっていないんだ。

 勝手に終わらせてどうする。


「そうでーす。Basketballは、公園でもできまーす」

「ちょっと、それ負けているじゃないですか! 私は負ける気はありませんよ!」


 カトリーナのちゃちゃに突っ込む小町を見て、凪月は思わず笑う。


「すまん。ちょっと気落ちした。だけど、まだ負けたわけじゃない」


 凪月は、顔をあげて告げた。


「こっからだ」

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