第6.21話 ステップイン

 銀島がボールを持った瞬間に、凪月は意識をそちらに向けた。


 白藤で最も警戒すべきプレイヤー。


 ここで銀島にボールを任せるのは、正しい選択肢。

 だからこそ、羊雲にとっては、いちばん嫌な状態。


 そして、ここは分水嶺。

 時間的に、銀島のシュートが入れば絶望的。

 なんとしても、ここは止めないと。


 銀島のプレイスタイルはかなり強引。

 一度ドリブルを始めたら、必ずシュートまで持っていく。

 しかも前傾姿勢。

 中野がハイポストにあがったが、道後はおそらく走り込んでは来ない。


 その前に、銀島のドライブ。

 凪月の予測は当たり、銀島は中央を割るようにドライブをしかけた。

 エンドライン側ではなく、中央を割ってくるあたり、どうかしている。


 だが、凪月としては、守りやすい。

 並走するカトリーナのおかげで、コースが固定されている。

 凪月は、そのコースに立つ。

 ちょうど、銀島の正面。

 そのまま来るならチャージングだ。


 おそらく、途中で止まり、カトリーナを剥がしてのミドルシュート。

 そこから決めるボディバランスを、銀島は持っていると仮定しても、だ。

 ディフェンス二人からチェックをかけられて、まだ保てるとは思えない。


 大事なのはタイミング。

 一歩、二歩と進み、銀島はカトリーナを弾くように、姿勢をあげる。


 ここか!


 カトリーナも同様の判断で銀島に寄る。


 が、


「くっ!!」


 銀島の身体は再び沈んだ。

 チェンジオブペース。


 ここに来て、こざかしい!


 凪月は、なんとか重心を後ろに引き戻す。

 しかし、態勢を立て直す前に、銀島はステップイン。


 カトリーナと凪月の間を割った。

 ボールを頭の後ろに隠し、強引に。


 重戦車か、こいつ!


 だが、まずい。

 完全に割られた。

 ボディの接触があった分、ディフェンスファールを取られる恐れがある。


 だとすれば。

 凪月は、身体を引いて、銀島のコースから、しっかりと外れる。

 その代わり、追って跳ぶ。

 ゴール下でシュートを放とうとした銀島の手に、凪月は手を伸ばす。


 ボールまでは届かない。

 しかし、腕にまでならば届く。

 ファウルでいいから、ここは二点をしのぐ。

 フリースローならば、落とす可能性があるだろ。

 ただ、腕が当たって、凪月は、その感触を奇妙に感じた。


 動じない?

 本当に女子の腕か!?


 まるで巨木を押すかのようで、さらに、身体の軸もぶれない。

 ディフェンスなどいないかのようにふるまう銀島のその目は、しっかりリングを見据えていた。


 嘘だろ?


 信じられない思いの凪月をよそに、

 ボールは放たれ、

 力強くボードに当たり、

 素直に、リングをくぐった。


 同時に笛が鳴る。

 審判の宣告を聞くまでもなく、凪月はサッと血の気が引くのを感じた。


「イリーガルハンズオブユース! 羊雲8番! バスケットカウント! 1スロー!」




 羊雲チーム 30 vs 33 白藤チーム

      2Q 残り1/2分




 最悪だ。

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