第6.20話 信頼

 逆転なんてさせるか!


 貴美子は、ボールを手にして、フロントコートへと運ぶ。

 速攻気味にしかけようとしたが、小町にピックアップされて阻まれる。

 強引にドライブをしかけようとしたところで、貴美子は、待て、と自分に言い聞かせる。


 この試合は2Q。

 だから、今は4Qの終盤と同じ。


 残り45秒、1点リード。

 この状況で、PGがキレたら終わりだ。


 ショットクロックは残り17秒。

 ますは、この時間を使い切って、一本取る。

 それから、次の羊雲のオフェンスを守り切る。

 あとはボールキープして試合終了。

 シュートを外しても、リバウンドを取れるならば、なおよし。


 けれども、オフェンスリバウンドの取得率は、ナツが入ってから、かなり低い。

 リバウンドに期待するよりも、点を取りにいく方を優先。

 ならば、スクリーンプレーをしかけて、アウトナンバーをつくりたい。


 まず、銀島に渡して、中野をハイポストに。

 それからオフボールになった貴美子と中野がスクリーンプレーで動いて。


 いや、辛坊に走り込ませるか?

 だけど、この場面を辛坊に任せるのは怖い。


 貴美子の思考が汗となって顎を伝う。

 落ち着け。

 点差、残り時間、ここまでの流れ。

 初めて、ってわけじゃない。

 慣れないメンバー、だろうとやることは同じだ。

 最も成功率の高い攻めを選択する。

 貴美子は、一つ息を吸い、視界を広げた。


 すると、


「貴美子!」


 声。


 銀島の声に反応して、貴美子は反射的にパスを出した。

 目が合い、そして、理解する。


「中野! 逆サイド!」


 指示と同時に中野が動く。

 右サイドをなるべく広く。

 銀島がドライブしやすいように。


「ギン! 行け!」


 言われるまでもなく、


「行く」


 銀島はドライブをしかけた。

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