第6.10話 インターバル(白藤)

 でこぼこなチームだな。


 貴美子は、素朴にそう思った。

 選手によって能力に差があり過ぎる。

 小野の実力は、記憶にあるとおりであった。聖天女学院から羊雲に移ったと聞いて、なまっているのではないかと心配したが、昨年通りの粘っこいディフェンス、無駄のないオフェンス。

 カトリーナは想像よりもプレーが雑だ。

 また、Cの水卜はジャンプ力はあるものの、その他の行動は大したことない。

 そして、もう二人は論外。

 その一人、七竈は素人だ。間違いない。

 最後の一人、トマルは、ちょっとわからない。

 バスケを知らないわけではなさそうだが、どうやらオフェンスができないらしい。いや、ディフェンスもお粗末であるが。

 奇行ともいえる動き。

 体調がわるいのか、と貴美子は不安に思ったものだが、その所作を見て、辛坊と青山がまた笑っていたので、中学時代から、あぁだったのかもしれない。


 どんな理由にしろ、こちらの脅威とならないことは間違いない。


 いろいろと試した結果、点差こそ開かなかったが、1Qでチーム力の差は明らかになっていた。

 ただ、点差が開かなかったのは、ゴール下での水卜の存在が大きい。

 貴美子は、ちらりと中野の方を見やる。

 やっぱり怒られているし。

 中野は馬場コーチに叱り飛ばされていた。

 そりゃ、そうだろう。あれだけ、リバウンドを取られていれば、怒られもする。シュートこそ撃たれなかったが、セカンドチャンスを潰され、また、相手にセカンドチャンスを与えてしまった。


 結果的に、この点差。

 むしろ、あれだけリバウンドで負けて、この点差ともいえる。


 決して中野はわるいCではない。ディフェンスは粘り強いし、周りをちゃんと見て動くことができる。セットプレーでは、良い動きをする。ただし、我が弱い。特に気が小さいようで、水卜の派手なプレーに気圧されている。

 辛坊と青山は、さすがに慣れたプレーをする。二人の息は合っていて、2on2の状態となれば、そう止められないだろう。しかもディフェンスがざる。悠々とプレーしているのがわかる。


 ただ、あいつら、走らないんだよな。


 ちょっと速い展開をしかけようかと、貴美子が声をかけても、彼女達はちんたらと走ってフロントコートへとなかなか至らない。

 葉桜の気風だろうか。わりと個人主義だからな。

 チームプレーと速い展開で、県内の中学バスケを制した貴美子としては、彼女達の怠慢な、いや、マイルドに表現して緩慢な動きは、苛立たしいかぎりであった。

 それは銀島も同じ気持ちのようで、けっこうフラストレーションが溜まっていそうだった。遅い展開のせいで、オフェンスの機会も少なく、動きたくて仕方がないといった様子だ。


 その期待に応えるのは、PGの努め。

 貴美子は、ぐっと背伸びをしてから、コートに立った。


「走りますか」


 この試合は2Q、残り10分、次はない。

 試合後の練習もあるが、それは、とりあえず考えない。

 いつものように、相手よりも走って勝つ。

 貴美子は、そう意気込んだ。

 

 インターバルが終了する。

 プレイヤーがコートに再び揃う。

 ポゼッションは白藤。

 サイドラインで、審判から銀島にボールが渡され、バックコートで貴美子がボールを受け取る。

 対するのは引き続き、小野。

 警戒しながら、フロントコートへとボールを運ぶ。

 貴美子は、片手で中野に指示を送り、ハイポストへとフラッシュさせる。

 すかさずパス。

 フリースローラインでボールを受け取った中野は、開かずリングに背を向ける。

 貴美子はパスと同時にリングへ走っていた。


 シザースカット。


 小野が追う。

 が、ちょうど、中野の横。

 そのままハンドオフパス。

 小野は、中野のスクリーンによって止まった。


「華! スイッチ!」


 声をかけるが遅い。

 水卜は反応できず、貴美子はボールを有してゴール下へ抜ける。

 開始10秒、悠々と踏み切って、貴美子は追加点を入れた。

 

 羊雲チーム 10 vs 14 白藤チーム

      2Q 残り9分


 流れはつくった。

 ここから点を取りに行く。


 そもそも貴美子の解析通り、両チームには明らかな実力差があった。ゆえに当然の結果ともいえるが、貴美子の意気込み通り、この後、約5分間、残り5分12秒に羊雲がタイムアウトを取得するまで、白藤のワンサイドゲームが続くこととなった。

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