第6.5話 2on2

 ちょっと、あれは止められないな。


 凪月は苦笑いを浮かべる。

 

 銀島栞。


 高身長のパワープレイヤー。

 テクニックがないわけではないが、小細工に頼るのではなく、パワーで押し切ってしまえるタイプ。

 銀島のようなプレーは、素朴な分、対策がたてづらく、いちばん止めにくい。

 本来なら、チームディフェンスで対抗するんだけど。


 このチームでは、まだむりだよなぁ。


 とすると、カトリーナに期待するしかないけど。

 カトリーナは、意外とディフェンスがうまい。だが、あまり好きではないようだ。初動で抜かれると、後を追わない。チームディフェンスを基本行わない。

 彼女曰く、


『つまんないでおじゃる』


 だそうだ。

 相手に点を取らせない、ではなく、相手よりも点を多く取る。

 バスケ哲学としては、永遠の対立軸であるが、現実としては、そのバランスが大事だ。

 カトリーナは、大分偏っているとは思っていたが。

 それじゃ、勝てないんだよな。

 ただ、代案もない。


「カトリーナ! 気にすんな。取られたら取り返せ!」

「気にしてないよー。Don't worry だよー」


 いや、少しは気にしてくれ。

 まぁ、プレイヤーとしては、そのくらい強いメンタリティであるべきか。

 取られたら、取り返せ。

 そのとおりだが。

 小町がバックコートでボールを受け取った。

 白藤のPG、道後はコートの3クオーターの位置からピックアップする。

 さすがは、道後。腰は低く、機敏だ。

 だが、小町も大したもので、まるで児戯かのごとく、難なくボールをフロントコートへと運ぶ。


 さて、ハーフコートの5on5。

 試合開始時の奇襲とは違う。

 ここからが、本当のオフェンスだ。

 攻めるのは右サイド。

 小町とカトリーナを置いて、他は左サイドへと移動する。

 付け焼刃のチームプレーはしない。

 できることを、最大限に生かす。

 羊雲で、点を取れるのは、小町とカトリーナと進々。

 しかし、進々が、ドライブ以外できないことは練習で確認している。

 本当に限定的なスキルだ。使えない。

 まぁ、それはいい。

 小町からカトリーナにパスが渡る。

 対するのは、白藤の5番、銀島。

 ここまでは、先の白藤の攻撃のリプレイだ。

 しかし、小町はカットインしない。

 逆に小町は少し下がり、スペースを開ける。


「I’m getting even with you!」


 フリースローライン付近の開けたスペースに、カトリーナはドライブをしかける。

 ただ、銀島のディフェンスを破るには至らない。

 しかし、それでいい。

 カトリーナがボールをついたのは二度。

 一度目で進み、二度目で手放した。

 彼女はそのままボールを元居たスペースに落とした。

 走り込んできたのは、小町。

 小町はボールを手にして、流れのままにリングへとドライブをかける。

 しかし、道後は振り切れていない。

 小町は、道後を視界の端に捉えたとき、流れを切った。

 レッグスルーからのバックステップ。

 道後はさすがにオーバーラン。

 小町はボールを両手で支え、頭上に構えて、軽やかに跳んだ。


 ツーハンドシュート。


 女子に多い撃ち方だ。

 ワンハンドよりも融通が利かない撃ち方であり、撃点は下がるが、安定性が高い。

 特に遠方からのシュートは、えぐいくらい入る。

 女バスの試合での3Pポイントシュートの応酬は、まるでサーカスでも見ているように思える。


「ちっ!」


 ただ、繰り返しになるが、安定させるのは難しい。

 バックステップを踏んでからのジャンプシュート。

 体軸のずれた状態でのシュートを決めるだけの技能は、さすがに小町にもなかった。


 ボールはリングに弾かれた。


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