第6.6話 リバウンド


「惜しい!」


 凪月は思わず口に出した。

 だが、わるくない。

 小町とカトリーナ、二人のプレーは、白藤に十分通じる。


 あとは、何本シュートが決まるかだな。


 凪月が、高くあがったボールを目で追いながら、小町へのフォローを入れようとしたとき、


 ゴール下から二本の腕が、昇ってきた。


「高っ!」


 まるで水面から跳ね上がる白魚しらうお

 水しぶきをあげる白魚は大きく口を開け、空中に飛ぶ羽虫を捉えた。


「ナイッリバンッ! 華!」


 華はボールをしっかりホールドして、着地する。

 ただし、ゴール下。

 すぐさまディフェンスが集まる。


「華! こっち!」

「小町ちゃん!」


 不格好ながらも、華は小町へとパスを繰り出した。

 ゴール下からのパス。

 少々、歪なパスではあるが、ゴール下からのパスは最もシュートを放ちやすい。

 そんなチャンスボールを、小町が見逃すわけもなく、しっかりとミドルシュートを決めた。


 羊雲チーム 4 vs 2 白藤チーム

     1Q 残り9分


 想像以上に、オフェンスがうまくはまった。

 ちょっとうまく行き過ぎていることが不安だが、凪月は素直に練習の成果だと受け止めることにした。


 これならば、何とかなる。

 そんな兆しを見た気がした。


 凪月は、この兆しを起点に、白藤の攻略方法を考え始めた。

 事前に調べはしたが、実戦で実際にオフェンス、ディフェンスをぶつけてみて、この目にして、やっとわかることもある。というよりも、その方が断然多い。

 事前に用意できるものは、用意したつもりだが、戦略の組み立てはアドリブだ。

 その後の白藤のオフェンスは、先ほどと逆サイド。

 辛坊(白藤7番)がボールを持ち、青山(白藤8番)とのピック&ロールで、簡単に一本決められた。

 

 羊雲チーム 4 vs 4 白藤チーム

     1Q 残り8分


 手馴れたものだ。

 元葉桜学園のバスケ部らしいプレー。さすがと言わざるを得ない。

 まぁ、相手が流々香と進々では、あまり参考にならないが。

 流々香と華、それから進々において、ディフェンスの練習を重点的に行った。

 だが、ディフェンスは経験がものをいう。一朝一夕で身につくものではない。

 この辛坊と青山をどれだけ抑え込めるか。

 やはりネックとなるのは、ディフェンスだな。

 わかっていたが、目の前にすると愕然とする。


「取られたら、取り返せ」


 凪月は思わず口にする。

 そうだ。

 ディフェンスが下手ならば、その分、オフェンスで取り返せばいい。


「取り返せばいいんだ」


 再び、羊雲のオフェンス、フロントコート。

 小町が運んできたボールは、進々に渡った。


「取り返せば」


 小町が逆サイドへと流れて、左サイドには進々と辛坊だけが残される。

 

 だが――

 

 典型的なアイソレーション。

 

 けれども――


 お膳立てされた1on1。

 

 しかし――



 進々は、動けなかった。

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