第3.2話 ポスター

 掲示板は既に埋まりつつあったから、まずは空いているところを探すこととなったわけだが、一階の掲示板で一箇所みつけることができた。


「でさ、部員候補は誘えたのか?」

「……」

「まだなんだな」


 少しばかり期待をしていただけに、凪月はがっかりする。

 期待をしていた、というのは、思ったよりも可能性が高そうな候補者であったからだ。


 羊雲学園1年Bクラス、小野小町おのこまち


 進々が上げた名前は、聖天女学院中等部のバスケ部に所属していたシューターの名であり、県のバスケ選抜アンダー15に選ばれたベストプレイヤーの名であった。

 その名を聞いて、まず凪月が思ったことは、


「見間違いじゃないのか?」


 であった。


「そんなわけないでしょ。名簿だって確認したんだから」


 いくらへっぽこ娘であっても、さすがに見間違えることはないか。

 とすると、本当の話ということになるのだが。


「何でそんなビッグネームが、こんなバスケ部もない高校にいるんだよ」

「知らないわよ」

「まさか、小野も、ハル姉の真似をしてバスケ部のない学校に来たとか、どっかのアホみたいな状態じゃないだろうな」

「……アホ」


 一人、横で落ち込む進々は放っておいて、凪月はポスターを貼り終える。

 本来であれば、そんな奴いないだろ、と思うのだが、いや、というよりも、そんなこと思いもよらないのだが、身近にそんな奴がいるのだから一考に値してしまう。


「まぁ、何でいるのかは置いておいて、小野だったら、バスケ部入ってくれそうじゃないか。何を手間取ってんだよ」

「いや、私もそう思ってたんだけど」


 進々はスッと視線を逸した。


「一緒にバスケ部創ろうって言ったら、普通に断られた」

「あー」


 言われてみれば、それって普通の反応だよな。

 凪月は反省する。

 部活を創るということになり、流々香を説得したことで、自分でも気づかない内に感覚が麻痺していたらしい。

 バスケ部に入ってならば、まだわかるが、バスケ部を創ろうと言われてもピンとこない。

 ピンとこないならば、まだいいが、時と場合によっては頭のおかしい奴と思われてしまう。


「で、どうするんだ? 小野がいるんだったら、絶対に引き入れるべきだと俺は思うけど?」

「私も諦めたわけじゃないよ。でも、正直、私、そんなに説得得意じゃないんだよね」


 そこで、進々は、ちらっと凪月の方を見る。


「何だよ、その目は」

「バスケ部創るんなら、バスケ部員の勧誘も必要だと思うんだよね」


 つまり、凪月の仕事に含まれていると。


「でも、小野だったら、進々の方が仲良いんじゃねぇの? 中学のとき話したこととかないのか?」

「うん、ない。高校で初絡み」

「おまえ、友達少なそうだもんな」

「そ、そんなことないよ!」

「クラスでもぼっちじゃん」

「……こ、これからだし」


 どんどん声が小さくなっていくのが気の毒になり、凪月は少しフォローを入れた。


「俺に初めて声かけてきたときは、すげぇ社交的な奴だと思ったんだけどな」

「あのときは、遥先輩だと思っていたから、テンション上がってたし」

「そのテンションで話しかけろよ」

「そのテンションで話しかけたら、小野さんに断られたの」

「あー、まぁ、若干うざいからな」

「え? うざいの?」


 心底ショックそうな顔をする進々を見て、凪月は言い過ぎたと気づく。


「あー、若干な」

「若干て? 若干てどのくらい!?」

「若干は、若干だよ」

「……若干」


 さすがに、沈み込んでいく進々に耐えかねて、凪月は首肯する。


「はぁ、仕方ねぇな。一緒に小野の勧誘いってやるよ」

「ねぇ、それって私がうざいから? 私が若干うざいから手伝ってくれるの?」


 そのときの進々は、若干うざ子であった。

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