第2.6話 ラスボス

 どう攻めようかな、と凪月が考えていると、隣から進々が小突いてきた。


「ねぇ、さっきから何の話しているの? 私、ぜんぜんついていけないんだけど」


 この女、静かだと思っていたら、話を理解していなかったようだ。

 面倒そうに頭をかいてから、凪月は、進々に尋ねた。


「おまえ、いくらまでなら出せる?」

「え? 唐突過ぎて反応に困るんだけど?」


 戸惑った声をあげる進々に対して、凪月は至って真剣に語る。


「つまりだな、予算編成の終わった今からでも、むりやりバスケ部をねじこむことは可能だ。ルル姉ならな」

「でも、さっき無理だって」

「あれはフリだ。ハードル上げといて、値を吊り上げようという、こすい手口だ」

「おーい、聞こえているよー」


 流々香のことは無視して、凪月は続ける。


「ルル姉なら、たいていのことはやってくれる。ただ、本人も言っているとおり、見返り次第だ。おまえも本気でバスケがしたいんなら、せこいこと言わずにさっさと金を積め」

「なんだか、詐欺的な臭いがぷんぷんするんだけど」


 不審そうに眉を顰める進々は、半信半疑のようであった。


「さっきの副会長さんの話、残念だけど、納得はしていて。それで、お金の話だから手を加えるのは難しいというのも理解できて。その上で、副会長さんに何かできるとは思えないんだけど」

「そいつは違う。むしろ、生徒会長にも一介の教師にもできないだろうが、ルル姉ならばできると思った方がいい」

「いったい何者なの?」

「いいか、もしかしてルル姉のことをRPGの旅先案内人か何かだと思っているかもしれないが、ぜんぜん違う。あれは、魔王だ。おまえの目の前には、今、魔王が座している」

「まだ旅立ってすらいないのに!?」

「その通りだ。例えるなら、ゲームのスタートボタン押して、名前を決めたら即魔王的な状態だな」

「クソゲーすぎる……」

「全国の強敵も、遥も問題じゃない。おまえの全国制覇を阻む最大の敵は、今、目の前に座っているルル姉なんだ」


 なぜか、えへんと胸を張る流々香である。

 さすがにものが違う。


「で、でも、私、今日はそんなにお金もってなくて」


 進々は、目を泳がせながら応える。

 まぁ、そうだろう。

 端から進々の財布は当てにしていない。出す気がある、という意思表示だけさせることができれば十分である。


「出せる分でいい。あとは、俺がルル姉を説得するから」

「せ、説得?」


 進々は首を傾げて、流々香の方を見やる。

 一方で、流々香は、ほほう、と笑みを深めた。


「私と交渉するではなく、私を説得するとは大きく出たわね」

「ルル姉はいい人らしいから、きっと大好きな弟の頼みを聞いてくれると思ってな」

「ふふふ、私がナツの頼みを一度でも聞いてあげたことがあったかしら?」

「……それは笑顔で言うことか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る