第2.5話 オファー

 流々香はくすりと笑った。


「まだバスケ部もないのに、ふかし過ぎじゃない?」

「うっ!」


 そして、また進々の心の臓をえぐった。


「ルル姉、もう少しオブラートに包めよ」

「だって、全国制覇する前に部活がないのよ。泳ぎたいって言ってプールがないみたいな。登山したいって言って山がないみたいな」

「プールがなければ海に行けばいいし、山がなければその辺のビルでも登ってればいいじゃん」

「パンがなければお菓子を食べればいい的な?」

「マリー・アントワネットか」


 そういうことが言いたいのではなく。


「つまり、まだ可能性は残っているだろってこと。可能性があるんだから、ふかし過ぎってことはないだろ。わるくてただの身の程知らず女だ」

「身の程知らず……」


 フォローを入れたつもりなのだが、また横で進々は項垂れていた。


「そうは言うけどね、ナツ。代替案があるのならばいいけれど、今回のケースって部活を学園側が認可するかどうかっていうシンプルな話でしょ」

「わかってるよ。単純な話じゃん」

「だから、それが無理だってさっき言ったよ」

「うん、だからルル姉に頼んでるんだろ」

「ん?」


 流々香は、眉間に皺を寄せた。


「ごめん、ルル姉、よくわからないんだけど」

「だから、すごい単純な話なんだけど」


 凪月は特に溜めずに告げた。


「なんとかして」

「え? まさか丸投げするつもり?」

「ははは、何言ってんだよ」

「そ、そうよね。さすがにそんなこと」

「当然だろ」

「ルル姉、びっくり」


 両手を大げさに挙げて、流々香は目を丸めた。


「さすがにそれは都合が良すぎると思わない? いきなりやってきて、無理だって説明してあげただけでも、あぁ、私って優しいなぁ、って思っていたのに、その上、バスケ部を創るところまでやってくれなんて」

「えー、だってルル姉ならできるじゃん」

「そりゃ、私ならできるけどさぁ」

 あ、できるんだ、やっぱり。


 だめもとだったけれども、なんとかなるようだ。さすが流々香である。

 ただ、ここからが長いことを、凪月は知っていた。

 流々香は、ココアを啜る。


「やるわけないじゃん。だって、私に何のメリットもないんだよ」

 ですよね。


「タダ働きなんて死んでもごめんだからね」

 死んでも、ですか。


「むしろ、タダ働きしたら死ぬと思うのよね」

 むしろ致死的、ですか。


 さて、流々香のことをよく知る凪月にとって、ここまでは想定内。


「で、私の愛するナツちゃんは、まさか私を殺しに来たわけじゃないわよね?」


 それは、流々香にとっても同様で、彼女は足を組んで、にやりと笑った。

 やっと本題に入ったかと、凪月は小さくため息をつく。


 それにしてもいったい誰が誰を殺すって?

 まったく、冗談も大概にしてほしい。


 この殺しても死にそうにない女子、七竈流々香を説得できる殺し文句があるのならばぜひ教えてほしいものだ。

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