第1.7話 ゲームオーバー

 最後のゲームを始めて、すぐさま凪月は勝利を確信した。

 ボールを持つ凪月に対して、赤毛少女はディフェンスのような構えをとるわけだが。


 そう、ディフェンスのような構えを。


 やはりそうだ。

 第一ゲームの際の印象は間違いではなかった。


 この女、オフェンスに関しては凄まじいが、ディフェンスに関してはてんでだめだ。


 膝は曲がっているが、前傾姿勢になり過ぎで、もはや獣のようになっており、表現はわるいが相撲でもとるかのようだ。

 しかも、実直でフェイクにすぐひっかかる。


 試しに右にボールを出してみる。

 すると、


 ササッ!


 右に動く。


 試しに左にボールを出してみる。

 すると、


 ササッ!


 左に動く。


 ……なんか、犬と遊んでいるみたいだ。


 そういえば、昔、犬を飼いたいと親にねだったことがあったな。犬アレルギーの母に反対されて結局飼えなくて泣いた記憶がある。

 もしも、あのとき飼えていたら、こんなかんじに遊べたのだろうか。


 そんな回想を行えるほど、凪月は余裕を得ていた。

 不安もあったが、なんとか姉の名を汚すことなく勝てそうだ。


 終わらせるか、と凪月は、一度右に踏み込む。

 すると、赤毛少女は、飛びつくように右のコースを塞ぐ。


 動きを見るまでもなく、凪月は切り返す。

 もちろん、赤毛少女は対応できない。

 リングまでの道は空いた。

 あとは、短いランニングだ。


 ふぅ。

 一時はどうなるかと思ったが。


 凪月はリングへの道程を走り始めた。

 だが、そのとき、


「いかせません!」

「ゴフッ!」


 脇腹に鈍痛が走った。

 気づいたとき、凪月はコート上に転がっていた。


 何だ?

 いったい何が起きた?


 しばらく理解ができなかった。

 確かに抜いたはずだ。なのに、凪月はリングに向かうことなく、地面に向かう羽目になった。


 ホワイ?


 その理由は、凪月の上に乗っかっていた。


「やったぁ! 止めました!」

「やったじゃねぇ! ファウルだろうが!」


 この猪女! 

 いきなりタックルしてきやがった!


「ラグビーやってんじゃねぇんだよ!」

「ぶぅ、でも、抜かれそうだったから」

「でも、じゃねぇよ! バスケなんだよ! こんなの一発退場だよ!」


 不満そうにしながらも、自覚しているようで、赤毛少女は、スッと顔を背けた。

 いや、そもそも不満そうな意味がわからないが。


「いいから、退けよ。重いっつーの」


 苛立ちの中で、ぐいと押し返した凪月であった。だが、彼は苛立ちのせいで大事なことを忘れていた。


 それは赤毛少女の性別だ。


 ぐにゅ。

 ぐにゅ?


 妙な感触に、凪月の思考が停止する。

 苛立ちは遠くの彼方へと吹き飛び、妙な汗が溢れ出て、心臓が弾けんばかりに爆音を奏でる。


「きゃっ」

「あ、ごめん」


 それで済んでよかったのか、それともわるかったのか、もはや凪月に判断することはできなかった。


 とにかく、感想は一つだけだ。


 見た目よりでかい。

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