カノジョ

彼女はいつも「生」と「死」について考えている。


「ねぇ、どう思う?」彼女は言うんだ。

「生きることは難しいけど、死ぬのは簡単って言うじゃん?

 私、死にたいのになかなか死ねないんだよね。どう思う?」と。

こういうとき、反応に困る僕は「そうだね」とだけ返す。

それについて、彼女は問いたださないし、怒りもしない。ただ、「そうよね」と言う。

第三者から見れば、僕たちの会話は、会話になっていないように見えるかもしれない。

でも、これが僕らの会話なのだ。


僕はいつも彼女の質問の返答に困る。

普段明るい彼女がときどき唐突に暗い質問をしてくるからだ。

でも、最近は慣れた。と、思っている。

彼女はそういう人間なのだと、思うことができるようになったから。


彼女との出会いは、大学3年の春。

今まで話したことなかったけれど、ある講義でのグループが一緒になった。

ただそれだけ。最初に話した言葉は何だっただろうか。「それ取ってくんない?」だったかもしれない。


彼女はブスでもかわいいわけでもなく、ただ背が低くて、少し細い。見た目は暗い。だけど、話せば豪快に口を開けて笑って、喋って、周りを明るくさせる雰囲気を持っていた。20歳になっても、背がまだ伸びると信じて疑わないくらい、ちょっと気が強いところもあった。

それだけ、普段は明るくて、思ったこともズケズケ言うし、声もでかいが、目立つことが嫌いな彼女は、発表になると声が小さく、おどおどして何を言っているかわからなくなる。正直、僕にとっては苦手な女の子だった。

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はじまりの話 @americansprit

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