最終話『俺がナイスガァイ! だ』



そして、5年後――





 赤茶けた荒野を黒い長髪の女が征く。鍛えられた肢体をライダースーツで包み、その上から赤いジャケットを纏った姿は鋭いナイフじみた美しさを放っている。だがそれでも隠せない優しさも持ち合わせていて、近づきがたい印象はない。



「随分と、埃っぽいところねぇ……」



 彼女は顔をしかめて辺りを見渡す。周囲には本当に何もない、どこまでも続く赤い大地と雲一つない青い空のコントラストだけが延々と広がっているだけであった。



「まったく、私を置き去りにするなんて――」



 いや彼女の瞳は建物を捉えた、まだ距離はあるが30分も歩けば到着するだろう。



「今度会ったら、ただじゃ済まさないんだから」



 憎らしい、あるいは愛おしい彼の顔を思い浮かべて黒髪の女は進む。その先に彼がいるとは限らないが、手掛かりの一つ位は手に入るだろう。何故なら彼女が目指すのはガイの為のバーなのだから――





 バー・ザ・ミドルは、ミドルガイが運営するバーである。世界中に存在し、ありとあらゆるガイの為に用意された非武装中立地帯。だがそこでおいおいと突っ伏し、涙を流す少年―― いや、ガイがいた。



「……これ以上飲むと、体に悪いぞ?」


「う、うるせぇっ! 俺が、俺がもっと……」



 サングラスを付けた男がむせび泣きながら、グラスに入ったミルクをがぶ飲みしている。このバーは基本的に子供には酒を出さないのだ。再びカウンターに突っ伏すグラサンを目の前に。ミドルガイはため息一つつかずにコップを磨く。


 カウベルが鳴った。ミドルガイが入り口に目を向けると、ライダースーツの上に革ジャケットを羽織った女が一人。肩口で風を切り、カウンターに向けてやって来る。

 


「……お久しぶりね、ミドルガイ」


「久しぶりだな、ガール。いや、レディか? アルカ=グラディウス」



 そう、彼女はアルカ=グラディウス。かつて土弩八雄どど はちおと共に神漢帝国に立ち向かったあのツンデレの少女。身長は165cmと少し伸びた程度だが、顔つきやスタイルは雰囲気はずいぶん大人びている。


 最もバストサイズはそこまで変わっていないのだが、言わぬが花だ。



「あら、お上手ね。けど、今日はお世辞を聞く為にここに来たんじゃないの」



 きゅっと彼女から怒気を纏う。並の一般人ならばその場で倒れ伏す程の濃密さは彼女が幾度となく修羅場を渡って来た事を示していた。



「ハチは、どこ?」



 ミドルガイは応えない、だが反応する影が一つ。



「ハチ、ハチだと……っ!?」



 グラサンの少年がふらりとカウンターから立ち上がる。



「ナイスガイの事かぁ――っ!」



 そのまま叫んで向かって来たサングラスに対し、アルカはストレートのパンチによる美しいカウンターが決まった。その美しさは全盛期のマイク=タイソンに迫っているかもしれない。男はテーブルを超えて吹っ飛んで、そのままきゅうと気絶する。



「何なの? これ…… つい手をだしちゃったけど」


「この世界に残っている、数少ないガイの一人…… ヘタレガイだ」


「これが、ガイ? それにヘタレって……」



 この世界には様々なガイがいる。けれどアルカが知る限りここまで弱く。またガイパワーの感じられないガイは初めてであった。それこそ、その辺のチンピラの方がまだ気合が入っているのではないか?



「ヘタレって言うなぁ~!」


「復活速度は早いけど、ただのザコじゃない?」


「なにその評価っ! 酷くね!?」



 事実ヘタレガイの戦闘力は低い。アルカとて名があるガイと勝負できる程度には自分を鍛えている。ただしそれは反応速度と奇襲あってのこと。正面からアルカに張り飛ばされる程度の力ならばガイとしては間違いなく最下級と言える。



「これだったら、ミドルガイが戦った方が……」


「なに、私のガイとしての能力は若者を助ける事。それに、ヘタレとは……」


「ヘタレとは……?」



 だが、ミドルガイは含みを持たせたまま語らない。ただ少なくとも彼がヘタレガイに期待している事をアルカは理解する。



「それでこいつが一応ガイって事は……」


「そう、彼はあの戦いでハチ・ザ・ナイスガイと最後まで一緒に戦ったのだ」


「本当に!? あの戦いの生き残りなの!?」



 アルカの顔が驚愕に歪む。第一次ガイイーター襲来戦役、地球を滅ぼさんと迫る1万を超える超宇宙生命体の襲来に対し、100人を超えるガイが木星軌道上で迎撃した戦いである。アルカが知る限り帰還者はごく少数。


 即ち彼は木星から地球まで、ガイイーターの襲撃を潜り抜けて帰還した事になる。



「そう、だったんだ……」



 アルカの瞳に優しさが戻った。伝え聞くだけでも大きな犠牲が出た戦いだ。それを考えれば彼の様子も納得がいく。



「ち、ちがう、お、俺は…… 逃げ回ってただけだ。それに…… それにっ!」


「それに……?」


「お、俺は。ナイスガイを見捨てて――」


「――ふざけるなっ!」



 ひっとヘタレガイは縮こまる。アルカが放った烈波の気迫に押し負けたのだ。



「お前がハチを、ナイスガイを見捨てた? 託されたんだっ!」



 彼女は怒りに震えていた。ヘタレガイのヘタレさに…… ハチが託したものを腐らせてしまおうとする彼の内向きさに!



「たく、された……」


「そう、託されたの。ナイスガイはね? 自分ひとりじゃ出来ない事があればその思いを、心を託すのよ……」


「あ、あ……」



 彼はサングラスの下から涙を零す。アルカの言葉でようやく自分が大きなものを託されてここにいる事を理解出来たのだ。



「もし、ハチが貴方にガイイーターと戦闘し。その脅威を肌で感じた貴方を逃がさなければ、国連空軍の対応はここまでしっかりと行われなかったはずよ?」


「お、俺は……」



 アルカによって、ようやくヘタレガイは自分の成し遂げた事の価値に気が付く。そう彼がいたからこそ、人類は今だに滅ぶことなくガイイーターに抗う事が出来ているのである!



「だけど、それだけじゃ駄目」


「駄目、なのかっ!?」



 けれどアルカは厳しかった。そう彼女にとって良いガイの基準はハチなのである!



「その先に―― より良いガイになる為に前に進まなきゃ」


「前に、進む……」


「今の貴方、前に進んでる?」



 前に進む、ナイスであり続ける。ハチが価値を見出したガイにはそうあって欲しいと彼女も願うのだ。



「……」


「前に、進みなさい。そうすれば――」



 だが彼女の言葉を非常なる警報音が遮った! さびれたバーの中に危険を知らせる赤い警告灯が光り始める!



「このサイレン――」


「ああ、奴らが…… ガイイーターがついに大気圏を突破してきたらしい」


「宇宙での戦線が突破された……」



 マスターがテレビを付けると、丁度防衛軍の最終ラインを突破すするガイイーターの姿が映る! ブラスバルターともまた違う手足の生えた巨大戦艦といった風情の怪物たちが多数、いや無数に地上に向かって降下する姿が!



「宇宙の果てからやって来た。ガイエナジーを吸収し続ける超エネルギー生命体。そんな化け物と戦って、3ヶ月戦線を持たせた宇宙軍の連中を褒めるべきだろうな」


「お、俺は…… 俺はぁぁぁっ!」



 ヘタレガイはカウベルを鳴らしてバーの外に飛び出していく。そうヘタレとはただ悔いるだけの存在ではない。時にはこうして底力を見せるのも、ヘタレの一面なのである!



「……行ったか」


「一人で、大丈夫そう?」



 アルカはカウンターに寄りかかり、楽しそうな声でミドルガイに問いかけた。



「無理だな、決して彼は弱くは無い ……だが、敵の力は強大だ」


「そう、ならちょっと行ってくるわ」



 すっと差し出されたサイダーを一気飲みして、アルカは出口に向かって歩き出す。



「どこに行くのかね?」


「ちょっとした、お節介にね?」



 彼女は無力ではない。少なくともナイスガイと共に戦えるだけの力を持っている。だから彼女は征くのだ、その先にある背中に追い付く為に。





 赤茶けた荒野に、鉄の巨人が立ちあがる。マントの如く襤褸切れを纏ったその機体の装甲は大地と同じ赤い色。その名も赤銅しゃくどう、ヘタレガイの愛機である疑似バルターマシンであった。



「よう、相棒。ずっとお前に乗って来たが、お前は最高のパートナーだったぜ?ボロボロになっても、俺を守ってくれた。そう、俺は守られていたんだ……」



 空の彼方に何かが光る。一つ、二つ、三つ…… それは数え切れぬ程のガイイーターの降下! 大気圏で燃え上がる熱が、青空にキラキラと輝きながら圧倒的な質量と共に彼を目指して飛んで来る!



「お前に、仲間に、そして…… ナイスガイにっ!」



 赤銅のコックピットが震えた。操縦桿を握りしめるヘタレガイの両手から、シートに押し付けられた背中から、そして恐怖で震える心から、ガイパワーが湧き上がり、そして機体の中央に設置されたガイドライバーが起動する!


 そう、これこそ人類が模倣したバルターマシンの中枢! ガイの持つ力を持って駆動する論理演算出力機関の力であった!



「だから、だから、今度は俺が皆を守るんだっ! 守ってもらった分!」



 叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。たとえそれが恐怖からであったとしても。ヘタレていたとしてもそれを抑えて進もうとする彼は間違いなくガイなのである! 空に向けて170mm電磁加速ライフルを掲げて敵の到着を待ち構える。



 ――そして、絶望は舞い降りた。



 全長1km、総質量2000万トンに迫る巨体! 巨大戦艦に手足と据え付け、悪趣味なディフォルメを施した怪物。それが最下級のガイイーター、ブロンズノヴァ級である!


 それも一体一体がファイナルガイに匹敵する圧倒的な戦力。それが多数、いや無数にやって来るのだ。20m級である赤銅の勝ち目はほぼゼロに等しい。



『この場所に、僅かながらガイパワーが感じられるが』


『だが、一番に出て来る個体がこの程度とは――』


『あまり、この場所は期待できそうにないな』



 圧倒的な圧力を持って、ブロンズノヴァ達はヘタレガイを嘲笑う。全身に多数の方を装備したその火力から見れば、ライフル一本で戦いに挑む赤銅の姿など誤差でしなないのだろう。



「ターゲット、ロック……」



 だがヘタレガイはそれを気にしない。自分が無力な事は分かっている。だからこそ出来る事をするのだ。トリガーを合図にバレルの中で砲弾が加速され、紫電と共に吐き出される!


 一発、二発、三発!その全てが先頭に立つブロンズノヴァに直撃した!



『ほう……?』



 先頭に立つブロンズノヴァの装甲にヒビが入る。そう確かにヘタレガイの、そして赤銅の一撃は無力な訳ではなかった。仮にこの攻撃を10発叩き込めれば撃破することは不可能ではない。



『だが、我らを相手にするには非力! それも単機ではなぁ!』



 けれど、足りない…… どうしようもなく、足りないっ! たとえヘタレガイが全力を持って戦ったとしても無数のブロンズノヴァ相手では手数が、火力が、何よりも力が足りていない。


 このままなら圧倒的な戦力差に押しつぶされてしまう。そう、一人ならば――っ!




『残念だけど、一人だけじゃ無いわ』



 東から、風が吹く。刃の如き鋭き疾風。宙を舞う青が放たれた閃光が、ヘタレガイが砕いたブロンズノヴァの装甲に更にビームを突き刺していく!



『ぬ、ぬぉぉぉ!』


『まだよ、恋する乙女の弾幕フィィィィーバァァァー!』



 青白色ツートンカラーの装甲を、金色の縁取りで飾った可憐なバルターマシン。細く、鋭く、美しく! 即ち超可憐高速型機動装甲巨兵、イーストファルシオン! アルカがハチの隣に居続ける為に手に入れた、バルターマシンである!


 アルカの掛け声と共に、イーストファルシオンの周囲に魔法陣が展開した! そしてそこから溢れだすのはビームの流星雨! 圧倒的な熱量と弾幕をもって、ヘタレガイが砕いた装甲を、更に食い破る!



『な、なんだと!? 女が、バルターマシンを!?』


『理屈に、理屈が合わんぞ!』


『そもそもバルターマシンなんて非常識の塊に、男しか乗れないなんて常識が通用するなんて考える方がどうかしているわ!』



 操縦席の中で彼女は猛禽の笑みを浮べる。もうただ普通の幸せを求めていた少女はここにはいない。既にアルカは恋人の隣に立つ為に、己を一流の戦士として鍛え直した雌豹そのものだ!



「あ、姐さん!」


『なんでこう、色んな人からそんな風に呼ばれちゃうのかしら……』



 彼女自身は仕方がないとある程度割り切ってはいる。けれどようやく20歳を超えたばかりの自分が、こうも姐さん呼ばわりされてしまうのは。何となくもにょもにょしてしまう程度には、アルカも乙女なのである!



『隙あ……』


『やかましいっ!』



 会話の隙をついて、傷ついたブロンズノヴァが砲門を蠢かす! だが、遅い! アルカの駆るイーストファルシオンは2つの十字手裏剣を取り出し、それを手首を翻して投げつけた!


 直径50cmの十字手裏剣が、手から離れた次の瞬間ビームを纏う! 絶対必殺の一撃と化したビームシュリケンが、ブロンズノヴァの胴体に空いた穴に飛び込み、その内部をかき乱す!



『ソニックスローター、爆散っ!』


『ぐ、ぐあぁぁぁぁぁっ!?』



 内側からブロンズノヴァが爆散する。ファイナルガイのアマルバルターに匹敵する怪物がアルカとヘタレガイの攻撃によって、あっという間に撃破されてしまったのだ!


 国連軍の宇宙戦艦10隻に匹敵する超戦力が、たった2機の20m級バルターマシンによって撃破される。それはガイイーターにとっては驚きに満ちた、人類にとって希望に等しい光景である!



『恋する乙女は、無敵よ。それじゃあ、ヘタレガイ、援護しなさい!』


「は、はいっ! 姉さんっ!」



 赤銅は170mm電磁加速ライフルを構える。イーストファルシオンは周囲に魔法陣を展開する。未だに敵の数は多い、だが彼らは諦めない。何故ならば、何故ならば、彼らは諦める事がナイスで無いと、知っているのだからっ!





 アルカとヘタレガイは奮戦した。たったの1時間で圧倒的な力を持つブロンズノヴァを30体撃破したのだ。文字通り艦隊規模の相手に対し、たった2機の中型バルターマシンによる戦果としては目を見張るものであると言える。



『姐さんっ! 大丈夫ですかっ!?』


『ええ、この程度ならどうにか……』



 アルカはコックピット内でやせ我慢を口にする。だが実際は限界が近かった。ブロンズノヴァによる対空砲火は決して伊達や酔狂ではない。もしも集中砲火を喰らえば高機動戦闘を得意とする分、装甲の薄いイーストファルシオンでは耐えられない。


 それは丁度シューティングゲームの高難易度をプレイするのと似ていた。一度も被弾は許されず、延々と現れるボスを倒し続けるのだ。


 既に数発の被弾で腰部推進器スカートスラスターは半壊し、機動力は80%に低下。既にエネルギーは50%を割り込み、攻撃力も下がっている。



(無傷じゃないけれど、敵の数はどうにか減らせた。このペースなら勝ち目は――)



 けれども、援軍が無いのなら。このままガイイーターの群を駆逐するだけの余裕はあった。動きにももう慣れた、エネルギーが続く限り戦えれば残りのブロンズノヴァも撃破出来ていたかも知れない。

 


『――あるとでも思ったのか?』


『『こ、この声はっ!』』



 ナイスガイの声が響いた。


 それと共に、天空から雲を貫き何かが降下してくる! それはブロンズノヴァを超える超絶巨体! 圧倒的な、圧倒的な、圧倒的な質量と共に大地を揺るがす! それは最早降下とは呼べまい。大隕石衝突ディープインパクトであった!


 天にそびえ立つ全長10kmの塊。それは既に移動する山と呼んでも過言では無かった。赤黒白色トリコロールの怪物! ディフォルメされた胴体に四肢を持ち、そこに無数の砲塔を持った姿は正にブラスバルターの醜悪なパロディと呼ぶに相応しい!



『随分と、粘ったようだがもう終わりだ――』


『初代ナイスガイっ!?』



 アルカには聞き覚えがあった。その声は間違いなく初代ナイスガイ! かつてファイナルガイと相打ちになった、あのマッチョなナイスガイの声そのものであった!



『いや、違う…… 俺はオーバーガイイーター!』



 だが、その声はナイスガイと呼ばれる事を否定する。コックピット内で笑う顔は間違いなくナイスガイ、けれどもそこに張り付いた邪悪な嗤いが間違いなく本人ではない事を示していた!



『最高クラスのガイの能力を得た、最強のガイイーター足る存在!』



 そうそれはナイスガイを模倣したガイイーター! ガイパワーを吸収し続けた結果、この世界に存在した最高のガイを形だけ真似た存在である!



『な、なんてガイ係数の高さなんだっ!?』


『くっ…… この戦力差は、絶望的ね』



 ヘタレガイがヘタレた。アルカですら膝を屈しそうになる。それほどまでに圧倒的な力がオーバーガイイーターから、そして彼の駆るブラスオーバーノヴァと呼ぶべきマシーンから発せられている!


 それこそブラスオーバーノヴァの指先に仕込まれた4600mm5連装主砲が火を噴けば、それだけででアルカのイーストファルシオンも、そしてヘタレガイの赤銅も消し飛んでしまうに違いない!


 けれど、二人は逃げる事は選ばない。ヘタレガイはヘタレた心を無理やり押し込み、左右の操縦桿を握り直す。アルカは折れかけた心を注ぎ合わせ、両手で操縦桿を握りしめる!


 最後まで足掻き続けると、覚悟を決めたその時――



「マルチロック・フルクラッシャァァァァァっ!」



 火砲120mm滑腔砲が、火砲400mm超々ド級砲が、火砲800mm超々々ド級砲が! そしてゴージャスな七色の破壊光線が! ブラスオーバーノヴァの周囲に降り注ぐ!


 未だに残っていたブロンズノヴァが超高速の徹甲弾に! 大火力の破壊榴弾に! 超威力の質量砲弾に! そして大出力の破壊光線によって貫かれ、炸裂され、潰され、そして溶かされる!



『貴様、貴様はっ!』



 圧倒的な、絶対的な、究極的な! クールで、ゴージャスで、そしてゴージャスなパワーが赤茶けた大地に舞い降りた!



『まさか、まさか――っ!』



 それは艦首に赤いドリルを取りつけた超弩級艦であった。だがよりクールに、よりゴージャスに生まれ変わっている! 赤白黒色トリコロールに金銀のモールドが加えられより洗練された機体が変形を開始する!


 艦底が左右に開き1万トンの腕になる! 艦尾が伸び大地を踏みしめる足になる! そして、そして、そして! 艦首のドリルが折れ曲がり、そこから出て来たのはデュアルアイの精悍な頭部っ!



『やっと、来てくれたのね――っ!』



 即ちブラスバルター・ザ・ナイス! 全長120メートル、総重量22万5千7百トン! 巡航速度マッハ30、瞬間最大速度準光速! ありとあらゆる質量兵器を無効化するアンチイナーシャル装甲と、あらゆるビームを無効化するシャイニングトリートメント装甲を両立させ。120mm滑腔砲を125門、大小合わせて1250発のミサイル! 400mm以上の超々ド級砲を32門、800mm以上の超々々ド級砲を12門ッ! 更に多数のビーム砲を搭載した重砲撃型機動装甲巨兵である!


 当然特殊兵装として超大型衝撃発生装置を両腕に、炸裂式破砕粉砕兵器を両足に、そして胸部にはナイスガイ弾頭も装備した最強無敵のスーパーマシンである!

 


「悪い、待たせたな!」



 ナイスガイな声が響く、既に5年前の可愛らしい少年の声ではない。ブラスバルターのコックピットに座るのは、クールに、ゴージャスに、そしてナイスに成長した

土弩八雄ハチ・ザ・ナイスガイであった!


 身長178cm! 甘いマスク、そして鍛え抜かれた細身の体! 初代ナイスガイと比べればパワーでは劣る!けれどそれをテクニカルとゴージャスな態度で補う、ハイブリットナイスガイ!



『ハチっ! どこほっつき歩いてたのよ!』


「悪い、ちょっと上の方でね?」



 5年前とは違い共に覚悟もあり、共に戦場に立つ二人。けれども余裕は増えたが本質的には同じであった。あえて違いを上げるならハチからオドオドした雰囲気が消えている事くらいだろうか?



『ま、まさか俺と逃がしたその日から……?』


「そんなに大したことじゃないよ。勝てないレベルの相手じゃ無かったし――」


『まさか…… 我らの、我らの基幹艦隊をっ!?』



 ブラスオーバーノヴァの超絶巨体が一歩後ろに下がった。たった120mのブラスバルター・ザ・ナイス相手に押されている!



「そう、もうお前以外壊滅させた」


『1万の大艦隊を、たった300人で倒したというのか!?』


「別に、大したことじゃない。いくら数が揃おうと、所詮ガイである事が出来ない。ガイを食い物にする事しか出来ない貴様達なんて、恐ろしいとは思わないっ!」



 そうハチは300人のガイを指揮して10倍を超える、いや単純な出力差で計算すれば100倍を超える相手を殲滅したのだ! 無論彼一人の力ではない、300人のいやヘタレガイ以外の299人のガイと力を合わせた結果である!



『だが、俺をこれまでのガイイーターと同じだと思うな!』


「ナイスガイの能力をコピーしたからか? ふざけるなっ! 何がコピーだっ! 貴様は――ナイスどころか、ガイですらないっ!」



 ハチの瞳が燃えている! ナイスガイを模した、オーバーガイイーターに対する純粋な怒りが、爆発的なガイエネルギーと化して実体化していく!



「さぁ、行くぞっ! 俺がナイスガァイ! だ」


『だが、それでも! この戦力差だ!』



 オーバーガイイーターの指揮の元、ブロンズノヴァがブラスバルター・ザ・ナイスに吶喊する! 総質量1000万トンの質量弾が合わせて二つ! 常識的に考えれば挟まれて潰されて、それで終わりだ!



「甘い、シルバーサーベル! ゴールドブレード!」



 だが! ブラスバルター・ザ・ナイスの右手に、クールガイから受け継いだ刃が、左手にゴージャスガイから受け継いだ剣が召喚される! 双方100mに迫る二刀流が今ここに実現した!



「銀剣ゴルディオンッ! スラッシュ乱舞ぅッ!」



 右から迫るブロンズノヴァが細切れに切り裂かれ、左から迫るブロンズノヴァが一刀両断で真っ二つに引き裂かれる!


 文字通りの必殺剣によって、空中で巨大戦艦が爆発四散する!



『むぅ! だが、まだだ! まだ我が軍勢は――っ!』


『それは、どうかしら! 必殺ッ! 乙女の弾幕フィーバーァァァっ!』


『おおおおおっ! いけぇ、レッドトルネードッ!』



 だが、この場にいるのはハチだけではない! アルカの駆るイーストファルシーンが魔法陣を展開し、無数のビーム弾幕で残ったブロンズノヴァを穿ち、ヘタレガイの駆る赤銅が赤い竜巻と化し、動きが止まった敵を貫いていく!


 ハチによって生み出されたチャンスに、残ったエネルギーの全てを注ぎ込み1体、また1体と撃破する!



『何故だ、何故だ! たった一人のナイスガイによって、我々がっ!』


「ナイスガイは―― 一人じゃない!」



 ハチは一人きりのコックピットで操縦桿を握りしめる。もうナイスガイはどこにもいない。目の前の座席は空のままだ―― いや、違う彼がナイスガイなのだ。今もまだナイスガイは胸の中で生きていて、その上でハチもナイスガイである。


 そしてコックピットでは一人でも、今なお地球軌道上でガイイーターと戦う国連軍が、それを助ける299人のガイ達が、ヘタレガイが、そしてアルカが共にいる!


 だから、寂しくは―― ない!


 ハチがトリガーを押し込むのに合わせて、ブラスバルター・ザ・ナイスは胸からナイスガイ弾頭を取り出す。ファイナルガイを砕いた必殺の一撃、だがそこに込めるのはナイスガイではない!



「おおおおぉぉぉぉっ!」



 クールかつ、ゴージャスかつ、ナイスになったハチ・ザ・ナイスガイの持つ莫大なガイパワーを込めるのだ! かつてナイスガイが命を賭して行った最終攻撃ですら今の彼には再現する事が出来る!



「喰らえ! これが必殺の――」



 超新星爆発級のエネルギーが、ナイスガイ弾頭に収束していく! どこまでも暖かいオレンジ色の、それでいて理不尽に他者を害する全てを撃ち倒す力が――っ!



「ブラァス・ザァ・ナイス、ガイッッッ!」



 咆哮と共にブラスバルター・ザ・ナイスは、ナイスガイ弾頭を文字通り拳で撃ちだした! 爆発的なエネルギーを纏った砲弾が、ブラスオーバーノヴァに向かって飛翔する!



『お、お、おぉぉぉっ!?』



 迎撃する為に指先に仕込まれた4600mm5連装主砲が火を噴くっ! が無意味! 圧倒的なガイパワーの前に、5m近い砲弾その物が消失していく! 圧倒的な、圧倒的なまでの、純然たるガイパワーの差がそこにはあった!



『な、何故だ? ナイスガイをコピーした私が……』


「コピーだと? 笑わせるなっ! 文字通り姿形を真似ただけのコピーに意味は無いっ! 数値の大きさ? 機体の能力? ナイスガイは、ナイスガイは――」



 ブラスオーバーノヴァの超絶巨体が、ハチの圧倒的なガイパワーに耐えられず崩壊していく。単純なエネルギー量から見ればあり得ない。だが理屈を超えた部分で、いやあるいは初歩的な理屈の部分でオーバーガイイーターは負けていた。



「そんな、そんなものなんかじゃないんだ!」



 宣誓と共に、ブラスオーバーノヴァは砕け散る。それがナイスガイ弾頭の一撃。ナイスでないものを消し飛ばす、問答無用の必殺技であった――っ!


 爆炎を背に、ブラスバルター・ザ・ナイスから水蒸気が立ち上る。ガイパワーのオーバーロードによって、灼熱した装甲を冷却しているのである。


 赤茶けた荒野に、ただただ撃破されたブラスオーバーノヴァと、ブロンズノヴァの残骸で埋め尽くされる。最早動くものはハチ達以外何もない。



『ハ、ハチ・ザ・ナイスガイ……』


「悪かったな、辛い役目を背負わせて」


『そ、そんな事はありません! 生きて帰ってきてくれた……それだけでっ!』



 ハチの生還をヘタレガイは涙を流して喜んだ。だが―― 殺気に近い圧力が二人を襲う。ギリギリとそちらに目を向ければ、宙に浮かぶイーストファルシオンの姿があった。



『……な、ナイスガイ?』


「……ああ、怒っているな」



 通信機を解して、二人のガイは通じ合う。最もここで通じ合ったとしても何の意味もない。ある意味ブラスオーバーノヴァよりも厄介な相手なのかもしれない。



『ハチ……?』


「な、なにかな? アルカ……」



 通信ウィンドウの向こう側で、表情だけ5年前に戻ったアルカが頬を膨らませて。そして弾けた。



『私を置いて、無茶なんてしないでよっ!』


「ご、ごめん……」


『馬鹿っ、馬鹿っ! ごめんって言う位ならずっと私の傍にいなさいよ!』



 目尻に涙を浮かべて、アルカはハチに文句を投げつける。



「ごめん、それは出来ない」


『なんでよっ!』


「この世界には多くの存在から狙われている。全てを僕が相手をしなくちゃいけない理由は無い。だけど……君と、君が居る世界を守る為にはっ!」



 だが、その思いをハチは受け入れられない。ハチ・ザ・ナイスガイは強い。間違いなくこの世界において最強のガイである。けれどもそんな彼ですら命を賭けなければならない場面は幾らでも存在する。


 そんな状況に愛するアルカを巻き込めない。それが彼の考えなのだが――



『ハチっ! あんたは私と私の世界を守れてなんていないっ!』


「なっ!?」


『私は……私はっ! ハチの傍に居ないと、駄目だから……』



 涙と共に吐き出されたその思いは、並のガイよりも遥かに強いアルカの弱さで。そしてあるいは強さでもあった。



「けど、僕はずっと危険な場所に……」


『ハチ、私がなんで戦っているのか知ってる?』


「……ごめん、分からない。ずっと思ってた。アルカには戦って欲しくないって」



 だが、それをハチは受け入れられない。それが彼の性で、それにツッコミを入れてくれる兄貴分はもうどこにもいないのだから。



『ただ、貴方の傍に居たいの。本当に、ただそれだけ』


「アルカ、それでも僕は……」


『だぁぁっ! このドヘタレ野郎!』


「なっ!?」



 話が堂々巡りになりかけたその時、ヘタレガイが弾けた!



『今のあんたは、俺以下の…… いや、俺以上のヘタレ野郎だ!』



 サングラスの下に、先程の会話で流した涙の跡を残したまま。ヘタレガイは叫ぶ。己の兄貴分であるハチ・ザ・ナイスガイの間違いを、弟分として正す為に!



『姐さんがどんな風に戦ってきたのか俺は知らない! だが、だがっ! 見ればわかる! あんたに追い付く為にどれだけ戦ったのか!だから、あんたにはそれに答える義務があるんだよ!』


「……ヘタレ、ガイ」



 ハチの顔が緩んだ。



「ありがとう、どうやら僕はナイスでない、選択肢を選ぼうとしていたみたいだ。 クールでも無い、ゴージャスでも無い。そもそもガイ失格の選択肢をさ……?」


『ハチ……』



 ヘタレガイの説得によりようやく彼は自分の性と向き合えた。相手の思いを無視して自分の都合を押し付けるバッドさに気づけたのである。



「アルカ、僕と一緒に来てくれるかい? どこまでも、ずっと一緒に……」


『あ、当たり前じゃないっ! ハチが嫌がってもずっと一緒よ!』



 この瞬間、ようやく彼らは隣に並びあえた。



「けどね、アルカ…… 僕の行く先には、地獄があるかもしれないよ?」


『ハチが居ない場所の方が、私にとって地獄そのものよ?』



 そう最初からアルカは覚悟していたのだ。いや覚悟ですらない、ハチと一緒に居たい気持ちにどこまでも正直であり続けたのである。



「アルカ……」


『ハチ……』



 けれど、二人の蜜月は。長くは続かなかった。



『ナイスガイっ! 姐さんっ! 大変だ!』


『なんだっ!?』


「空気読め、ヘタレ!」



 アルカの怒気に悲鳴を上げそうになりながら、それでもヘタレガイは止まらない。



『けど、残ったガイイーターが皆ここを目指してるんですぜ!』



 そうガイイーター達は一発逆転を狙う為に、ハチ・ザ・ナイスガイを倒す為に! 国連宇宙軍と299人のガイと戦っている戦力をこの場に終結させようとしているのだ! ハチとアルカの顔が引き締まる!

 


「到着までの予想時間は?」


『あ、後30分!』



 はぁ、とハチがため息を吐いた。



「あ~ ごめん。アルカ」


『な、なによ……?』



 通信モニターの中で不機嫌な顔を見せるアルカに、ハチは最高にクールで、ゴージャスで、そしてナイスな笑みを向ける。



「いちゃつくのは、こいつらを倒した後になりそうだ」


『う…… うんっ!』



 この戦いの後にやって来る最高に幸福な時間を思い、アルカの顔は綻ぶ。そして直にシリアスな顔に戻った。これからやるのは命を賭けた戦いなのだから。



「アルカ、ヘタレガイ! 小回りを生かして、僕のフォロー頼めるか!?」


『勿論です!』


『私を誰だと思ってるの?』



 ニヤリと、アルカが不敵に笑う。



『ゲームセンターでシューティングゲームをやっていた時から時からずっと…… 私とハチはパートナーだったじゃない?』


「ああ、そうだったな……」



 そう、これからもずっと。ハチはアルカと共に歩んでいく。



「じゃぁ、行くぞっ! 俺達の戦いは――」




 これからも、続いていくのだから!


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重轟機譚ブラスバルター ハムカツ @akaibuta

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