処刑

 少女は豪華絢爛な部屋へと呼び出される。

「お呼びですか? ミサゴ様」

 少女がミサゴと呼んだ玉座のような豪華な椅子に偉そうに座っている無精髭の男は機嫌が悪そうに少女に話しかけた。

「コルリよ。因子が捕まった」

「えっ」

 その知らせにコルリは驚いた。

「奴らの耳にも、因子の場所が特定してしまったらしい。俺の計画は台無しだ」

「誠に申し訳ございません!」

 不満そうにギロリと睨むミサゴにコルリは恐怖で足が震えつつも必死に謝る。

「私が彼をさっさと連れてくればこんなことには。ミサゴ様の計画を台無しにしてしまった本当に……」

「もういい。謝罪ばかり聞き飽きた」

 ミサゴは顎の無精髭を触りながら退屈そうにコルリの謝罪を聞いていた。

「おい、アイツを連れてこい」

 ミサゴの一言で、その部屋の中に拘束されて暴れている男が運びこまれる。

「やめろ! 俺が何もやってない!」

 男はそう叫びながら暴れていた。

「お前は……」

 コルリはその暴れている男と面識があるらしく、目を見開いた。

「さてマヒワよ。俺に何か申し開きしたいことがあるだろ?」

 暴れる男に頭を強引に掴んでミサゴと視線を合わせるように仕向ける。

「何もやってないんだ! ボス信じてくれ!」

「じゃあ何であの時真っ先に警察がやって来たんだ? お前が情報をリークしたんじゃないか?」

「違う誰にも教えてない! 本当だ!」

「御託なんて聞き飽きたんだよ。その口、喋ることが出来なくしてやろうか?」

 ミサゴはそういうとポケットから折りたたみ式のナイフを取り出して、暴れる男の口の中をつっ込んだ。男が悲鳴を上げるたびに赤い液体を吐く。

 コルリとその光景に思わず視線を逸らす。

「あえ、あえへくへ!!」

「ダメだ」

 ミサゴはそう言って、横にナイフをスライドすると、男の口は案外容易く裂けた。

「あー、お前が口走らなくても、つけられていたのかもしれないなぁ? お前は鈍感だから。だから、その足もいらないだろ?」

 ミサゴはそう言って男のアキレス腱をナイフで切断する。夥しい血があふれ出して止まらない。

 男は断末魔にも近い声で叫びながら必死にミサゴに助けを乞うが、口が裂けられているので、発音が阻まれ何を言っているのか全く分からない。

「何を言ってるか、わっかんねーよ」

 ミサゴはそう言って男を思いっきり蹴飛ばす。まるで芋虫のように身じろぎする男。

「さて、その声もそろそろウザくなってきたから、黙ってもらわねーとな?」

 ミサゴはそう言って男の喉下にナイフを添える。男は首を振って必死に抵抗するが、

「ちゃんと罪は償わないとな」

 そう言って、男の喉下を切りつけた。まるでシャワーかのように血が吹き出し、男はそのまま、絶命した。

「あーあ、部屋が汚くなってしまった。あとで掃除を頼まないとな」

 ミサゴは動かなくなった男をゴミでも見るかのように蔑む。

「……俺が育ててやった恩は忘れていないよな? コルリ」

 ミサゴはナイフを構えてコルリを見る。

「はい……、親から捨てられた私をここまで育てて頂いたご恩は感謝しきれないくらいです」

「分かればいいんだ。そこで、お前に再チャレンジの機会を与えてやる」

「再チャレンジ……ですか?」

「そうだ。お前が因子を取り逃した時用に、因子にアンカーを設置した。ソレがコレだ」

 ミサゴは懐からレーダーのような小型機械を取り出して、コルリに見せる。

 レーダーは地図上のある場所で赤い丸が点滅していた。

「ココに因子が囚われているはずだ。そこへ侵入し、因子の奪還を開始せよ。お前一人じゃ心細いだろうから、四、五人の部隊で行って来い」

「はい。承知しました」

「今度失敗したら……分かっているよな?」

 ミサゴはナイフをちらつかせる。次はこうなるぞというコルリに対しての脅しだろう。コルリはゴクリと唾を飲み込んだ。

「はい。必ずやミサゴ様に彼をお届けします。私は貴方に一生着いて行きます」

 コルリは膝を着いて、ミサゴに服従を誓った。


 ***


 あれからどれほどの日数が経ったのだろうか?

 時計も無ければカレンダーもない、コンクリートが打たれただけのまるで独居房のような簡素な部屋に僕は監禁されていた。

 体内時計の時間がどんどん狂っていくような感覚。扉の前に居る見張りに時を訊ねても教えることは出来ないの一点張りだった。本も娯楽のようなものも一切無い部屋は退屈すぎて寝ていたり、隅っこのほうで物思いに耽っていたりという日々を送っていた。

 処分とか言いつつ、その日までの生命維持はさせてもらえるらしく、食いつないでいける程度の軽食は用意されていた。栄養だけすぐ取れるようにゼリーのパックのようなものだけれども。

 時折、部屋の外ではザワザワと声が聴こえる。

『アイツの処分は?』

『まだだ。○○国が会議で反対しているらしい』

『保護も視野にいれているとか?』

『保護って、道具として保護だろ? そんなの断るに決まっている』

『早く決まってくれないかなぁ。いつ何が起こるか分からない俺らの気持ちも考えてくれよってところだな』

『シッ。声が大きい。聞かれているかもしれないだろ?』

『それにしても、これだけ処分についての話し合いに難航するなら、いっそすぱっとやればよかったんじゃねぇか?』

『一応、この国に生まれたんだから、この国における人権が適応されるからな。例え因子でも』

『めんどくせぇなぁ』


 壁が薄いのか話している声が大きいのか、そんな声が聴きたくなくても僕の耳へと勝手に入ってくる。

 漏れてくる声を聞き取ると、どうやら僕の処分の件に関しては、難航に難航を極めているらしい。

 ソレまで僕はこのまま閉じ込められているのかぁ……と思うと、どっと疲れたような感覚になる。

 それにしても、世界の脅威になるような能力が僕に備わっているだなんて、今でも信じられない、そんな力があるのであれば、とっくに世界は滅んでいるんじゃないかとさえ思えてくる。

 吾妻という男の話によると、僕の意志とは関係なく自動でその能力が使われるということだったけれども、ソレがいつなのか。そして、どういうものなのか。それが僕にとって今は怖くて仕方が無い。

 隅っこのほうに体育座りで座りつつ、僕はあの出会った少女のことを考えていた。あの少女との出会いがそういえばそもそもの始まりだったのかもしれない。

『塩塚手鞠さん、貴方は近々捕らえられることになります。わたしはそんな貴方を救う為に来ました』

 彼女の言葉が脳裏を過ぎる。

『貴方がずっと住んでいたこの世界がある日を境に皆、敵になります。でも、わたしが属している組織は貴方の味方です。わたし達の元へ来てください。貴方の力が必要なのです』

 彼女が僕に何か起こるのかを知っていた。だから、忠告しに来た。

『ごめん、君のいう事を素直に信じることは出来ないよ。だから、付いていく事は出来ないかな』

 でも、ソレを僕は軽くあしらうことで無下にしたんだ。

 あの子の話をちゃんと聞いておけばこんなことにはならなかったのかなぁ? とため息をつきながら、ごろんと仰向けになる。そして、自分の手を天井にかざして、グーパーと握った。

 自分の意思で動くことの出来る、僕自身の体だ。しかし、次の瞬間目の前にノイズが走り……。


 一瞬、僕の手が人間の手ではない、異形の手になっているような気がした。


「え?」

 慌てて僕は起き上がり、自分の右手を見る。いつも通りの自分の手だ。

 何だか脳内でいきなり画面がすり替わった様なそんな感覚に僕は混乱してしまう。

 嫌なことばかり考えていたから、変な妄想が生まれてしまったのかもしれない。ココは深呼吸でもして落ち着かなきゃと息を深く吸い込んだときだった。


 目の前の扉が急に開かれて、そこには。


「貴方を助けにきました」


 あの時の少女がいたのだった。

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