第2話 猫の集会

 プリンを名乗った少女は続けて説明する。

「実は私達、月に一度……満月の夜にこうして、人型になることができるんです。ご主人様とお話したい、とずーっと神様にお祈りしていたら……お願いが聞き届けられました」


 なんだそれ。

 今日は満月だったっけ?


 っていうか、もう何でもいいや。


「ご主人様、実は私達と一緒に来ていただきたいところがあります」

 プリンはいきなり俺の手をつかんだ。

 ちゃんと手にも肉球のついた手袋をはめているあたり、芸が細かいというか……。


「どこ?」

「いらっしゃればわかります。ね、メイ?」

「そうそう」

 うちの飼い猫を名乗る女の子2人は、俺の手を取って外に連れ出そうとする。


「待って、俺……パジャマ……」

「そんなこと、誰も気にしませんよ」



 かくして。

 いきなり謎の女の子達に連れ出されたのは、自宅近くを流れる川の土手。

 もうすぐ花火大会があるせいか、背の高い雑草はすべて刈り取られている。


「……何が始まるんだ?」

「それは、見てのお楽しみです」


 何が始まるんだろう?

 俺は子供のように、続きを楽しみに待った。


 すると。

 どこからともなく、猫達がぞろぞろと集まってきた。


 そう言えば猫は集会を開くって言う話を聞いたことがある。

 集まって来たのはごく普通の猫だ。うちのみたいに、見た目が人間みたいなことはない。


 なんだけど。

 不思議なことに彼らの会話がちゃんと、日本語で聞こえてくる。


『来週からうちのご主人、海外旅行ですって。あたし、ペットホテル行きよ』

『それは気の毒ね。あそこ、ご飯は出るけど内情は監獄と一緒よ?』

 どうやら飼い猫同士らしい。


 そうかと思えば、

『いつも魚をわけてくれてた漁師のゲンさん、そろそろ現役引退らしいんっすよ……これから、どうやって餌にありつけばいいのか……』

『心配すんな! 流川に穴場があるんだよ。海鮮料理を推してる店でさ、毎晩ゴミ箱にはもったいないぐらいの餌が大量に残ってんだぜ?』

『でも、縄張りが……』

『大丈夫! 俺の紹介だって言えば、皆が納得するからさ』

 こっちは野良猫同士らしい。


 猫の社会にもいろいろあるんだな……。


「なぁ……プリン。俺、ここにいてもいいの?」

 俺は思わず、隣に立っているプリンを名乗る猫型少女に話しかけた。

「もちろんです」

「俺、人間だけど……ほんとにいいの?」

「今夜は特別ですよ、ご主人様」


 やがて。

 長毛種の黒い猫があらわれると、それまで雑談を楽しんでいた猫達が静まり返る。


 側近なのか、グレーの猫がすぐ傍に寄り添っている。


「全員、敬礼!!」

 なんだ? 敬礼って……。


 猫達は一匹も漏れずに姿勢を正す。

 隣を見るとうちの猫達も背筋を伸ばして、口を閉じた。


「皆、よく集まってくれた。今日は……大切な話がある」

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