俺ん家の飼い猫が人間の姿になって、猫の集会に連れて行ってくれた夜の話

成宮りん

第1話 とりあえず、驚け

 それは、とある夏の暑い夜のことだった。


 冷房のタイマーが切れて、暑さに目が覚めた。

 一晩中つけっぱなしは気が引けるのでタイマーをセットするのだが、スイッチが切れてしまう都度、起きてしまう。


 あと2時間ぐらい延長しよう。

 俺は暗闇の中、リモコンを探した。


 むにっ、と柔らかいものが手に当たる。猫か……。

 寒い冬なら、布団に潜りこんできてくれるのは大歓迎だが、熱帯夜にはカンベンしてもらいたい。とりあえず床に降りてもらおう。

 俺は暗がりの中で猫の首根っこを探して手さぐりする。


 なんだかちょっと違和感。

 モフモフというより、つるつるすべすべ……?

 と、同時に「にゃー!!」と、声がした。

 続いて「ご主人様のバカ!!」と、女の子の声で日本語が聞こえた。


 はい? 誰だ、ご主人様って。

 俺のことか?


 とりあえず、電気を点けよう。


 気がつくと目の前に、褐色のショートヘアと明るい緑の瞳をした女の子が座っている。

 その上、よく見るとかなり珍妙な格好をしている。


 首には大きな赤いリボンが巻かれている、それも鈴つきの。

 むき出しの肩に、虎模様の……あれは確かビスチェとかいうやつだ。下半身は同じ模様のホットパンツ。


 コスプレか?


 いくら暑いからって、人前で腹を出すような格好は見苦しいぞ。

 だいたい、そんな服装で外を歩いてたら通報もんだ。


 それに、なんだよ。

 頭に猫みたいな耳を生やして、ご丁寧に尻尾まで……。



 その時になって初めて、俺は異様な事態に気がついた。

「えっと……どちら様?」

 女の子は何を今さら、と言う顔をして答える。


「メイだよ」

「ああ、うちの猫もそういう名前」

「だから私、その猫のメイだって」


「……」

「……」


「……頭、大丈夫? そもそも、どこから入ってきたんだ? お家はどこ?」

 何を言ってやがる。


 どう見たって人間の女の子じゃねぇか。ちょっと妙な格好をした、ややイタい感じのな……。


「お家? ここだよ」

「あのな……」

 最後に帰って来たのは誰だ? 俺か。玄関の鍵をかけ忘れたんだろうか。


 その時。

「ご主人様、お目覚めですか?」

 今度は背後から違った女の子の声がした。


 お目覚めも何も、起きているのか夢を見ているのかはっきりしない。


 俺はおそるおそる振り返る。薄い紫色のロングヘアに、深い緑の目。やはり猫の耳と尻尾がついている。

 こちらも首に淡いブルーのリボンを巻いており、かなり胸の大きく開いた、白と茶色と黒の三毛猫みたいな模様の服を着ている。ついでにスカート短かすぎ。


「プリン~。さっきご主人様が私の胸、触ったんだよ?!」

 え? マジでか?!

「メイ、それは事故よ。うちのご主人様は、そういうキャラじゃないから」

「むー……」

 おい、お前らが俺のキャラを語るのか?


「えっと……?」

「私、プリンです」


 確かに、家には二匹猫がいる。

 一匹はメイと言う名前で、もう一匹はプリンと名付けた。が……。


「驚いていらっしゃいますね。でも、これは現実ですよ?」

 嘘つけ。

 なんで猫が人間の格好……それもコスプレみたいな衣装で、日本語をしゃべるんだ。


「お疑いのようですから、これでもどうぞ」


 ばしっ!!

 痛い!!


 こ、こいつ……笑顔で本気のパンチを喰らわせてきやがった!!

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