第3話 長老による演説
「我が飼い主である、保健所に勤めるタケシから聞いた話では……今日、ドリームボックスで殺処分された我らが同胞は約200匹……!!」
野良猫や捨て猫を集めて殺処分する箱のことを『ドリームボックス』と言うことは俺も知っている。
「さらに言うなら! 昨日、観音町のとあるマンションのゴミ捨て場に、生まれたばかりの子猫が捨てられていた。人間どもの出した生ゴミと一緒にだ!! 彼らはカラスに襲われ、不幸にも2匹が命を落とした……」
「なんという……」
ざわざわ。
「それというのも、本来なら回収日ではない曜日に人間どもがゴミを出したせいで、カラスどもが増え、罪なき子猫達が犠牲になっているのだ!!」
無責任な飼い主によって捨てられた猫達。
繁殖の可能性を考えずに無闇に、野良猫に餌を与える人間達。
年間およそ2万匹の猫は、保健所で処分されているらしい。
飼い主が猫を捨てる理由は様々だ。
引越し先がペット禁止、予想外に子猫が生まれてしまった、病気になってしまったので面倒を見きれない……など。
いずれも人間の身勝手な理由で振り回される猫達の身にもなってみろ、っていうんだ。
猫達はしゃべれない。
だから、文句も言えない。
人間達には声が届かない。
でも、人間と同じ……猫にだって感情がある。
赤い血が流れている。
俺は猫が好きだ。
1匹でも多く、助けたいと思う。
でも……俺1人でできることなんて、限りがあるだろう?
集まっていた猫達のざわめきが大きくなる。
「人間を許すな!!」
「そうだ!!」
「静かに!!」側近が言い放つと、静かになる。
「皆……前回の集会で出た提案のことは、覚えているか?」
はい、と何匹かの猫が答えた。
「いよいよ、あれを実行に移すことにしようかと思う」
おお~、と猫達の間から感嘆の声が漏れる。
「いいか、お前達。最低は1匹につき、1匹じゃ!!」
何の話だ?
俺は思わず、プリンの方を振り向く。
彼女(?)は微笑んで、司会をしている猫の方を見ろと言った。
「思い出せ! 我らは元々狩猟民族……!! 来る日も来る日も餌を求め、野山を駆け回り、獲物を捕えて生き延びてきた。いつしか人間に飼われることにより、野性を失った同胞たちよ!! 我らの身体に流れる血を思い出せ!!」
な、何の話だ?
「狙い目は古い日本家屋!! もしくは地下道の割れ目じゃ!! 新しいマンションはダメだ。奴らは清潔で化学物質の匂いが強いところには集まらない」
おーっ!! と、猫達の声が上がる。
「なぁ……何の話なんだ?」
俺は再びプリンに話しかける。
「ネズミです」
「ネズミ……?」
「あの黒い猫様は、私達の間では『長老』と呼ばれています。広島駅前から平和記念公園までの範囲を網羅する、古くからいらっしゃる野良猫です」
ずいぶんと広い縄張りだな……。
よく見ると黒猫の顔には傷跡があった。
他の猫とケンカしてできた傷だろう。
「で、ネズミを集めてどうするんだ?」
するとプリンは答えた。
「感染症を広げるんです」
「感染症……?」
「ネズミって可愛らしい外見からは想像できませんが、かなり強い病原菌を全身にまとっています。素手で触るなんてもっての外」
確かにそうだ。
「長老は人間達への復讐としてネズミを集め、病原菌をばら撒くという計画を立てているんです」
「なんだそれ……」
まるっきりテロじゃないか。それも細菌兵器なんて。
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