Case 1ー4 幼馴染
コトコトといい匂いを立ててコーヒーを手慣れたようにいれている男は、30代くらいだろうか。明るい茶髪はいつの間にそんな時間になっていたのか夕日が反射して時折キラキラと光る。伏せられた瞳は淡い小麦色で、肌は病的に、でもどこか儚く感じるほど透明で白かった。
「どうぞ」
出されたコーヒーに少しばかり警戒している俺の隣で警戒というものを知らない馬鹿は平気でそれを口へと運んでいた。
「美味しい、、、」
幸せそうにコーヒーを味わっている燐と相変わらず警戒している俺のことを交互に見れば男は口を開く。
「先ほどの話の続きをしましょうか。」
先ほどの話、というのはおそらく俺たちがここに踏み入れたときに男が俺たちへと発した「”貴方は誰の記憶を望みますか?”」という質問のことで、続きというのは俺たちの答えの催促だろう。
「すいませんが質問の意図がわからないのですが」
誰の記憶を望むか、、。
そもそも質問としてこれは成り立っていない。
誰の記憶を望むのか、だなんてここで俺が織田信長だとか坂本龍馬だとかはたまたペリーだとか歴史上の彼らの記憶を望んだところでこの男は見せられるわけがないのだから。その人の記憶や過去を知るにはその人に直接聞く必要があるのだが彼らは歴史上の人物であって現代に生きてはいない。よって彼らの記憶を知ることなんてできない。
それにここで例えば俺が燐の記憶を知りたいと言ったところで知れるわけではない。
それは燐が話すことで初めて公になる事柄であり他人が勝手に教えられることではないのだから。
よってこの質問は意味のないものであり質問として成り立っていないのである。
俺のその問いかけに男は少しばかり眉を下げると俺から視線をそらし燐に向ける。
「燐さんなら答えられるはずですよね。」
まるでわかりきったようなセリフだった。
わかりきっている口ぶりだった。
改めて聞きます。
男は燐の目をじっと見つめるとそっと微笑む。
「奥原燐さん、あなたは誰の記憶を望みますか」
少し俯いた後燐もまたそっと微笑んだ後男に向き直る。
そしてそっと口を開く。
「葛木高校一年二組25番 篠義 晴
彼が自殺を選択するまでの記憶を見せて欲しい」
その名前は。
紡がれた存在は。
俺が記憶から消そうとした”もう一人の幼馴染”で親友だった存在の名だった。
記憶保持屋 天崎 瀬奈 @amasigure
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