Stage3:MenHellerエスカレート
「尊斗、昨日見たんだけど!」
『
『MenHellerエスカレート』キラキラキラーン
『3』ピコンッ
『2』ピコンッ
『1』ピコンッ
まだ誰もいない学校。チャラララチャッチャ チャラララチャッチャ
朝早くだけ開放されている屋上には俺たち以外は誰も来ていない。 シュウウウイイイインン キラキラキラ
約束通りの時間に来た結衣が俺の名前を呼ぶと、いつも通りの半透明な俺だけに見える画面が目の前に現れて音ゲーが始まる。ピポピピポ ピポピピポ
今回もまた曲名がひどい。まぁ…この音ゲーをしはじめて、最初は確かによかったんだけど、徐々に難易度も上がってきた。 ティンテゥンティントゥン ティントゥンティントゥン
結衣は、俺が欲しい言葉をいうことが当たり前になっていって、少しでも間違えるとすぐに「リスカをしようかな…」みたいなことを言うようになった。 ティッティティティティティン
今になってみて先輩が言ってた「これで終わるなら入院も悪くない」って言葉の意味が俺にもわかる。 ティティティティッティン
これで顔色をうかがったり、心と頭を無にして欲しい言葉を言うだけの存在でいなくてよくなるなら…そう思った。 チャラララチャッチャ チャラララチャッチャ
「ねぇ!なにか言ってよ!昨日の女なんなの?浮気?」
「連絡も全然返してくれないじゃん!」
「見て!悲しくてリスカしちゃったの!尊斗のせいだから」
あー。彩花と帰るの見てたんだ。チャラララチャッチャ
楽しかったのは確かだけど、別にやましいこともない。バイトの同僚を駅に送っただけだし。 チャラララチャッチャ
ティンテゥンティントゥン ティントゥンティントゥン
ティッティティティティティン ティティティティッティン
「しらねーよ」miss シュコン
「もうお前といるの疲れた」miss シュコン
「俺はお前の欲しい言葉製造機じゃねーよ」miss シュコン
左上のゲージが満タンから三分の一になったのがわかる。ピポピポ ピポピポ
泣きそうな顔になったかと思ったら、顔を真赤にして目を吊り上げた結衣がこっちに近付いてくる。チャラララチャッチャ チャラララチャッチャ
ドシンドシンってSE入れたらぴったりだよなーなんて無駄なことを考えてると、結衣に胸ぐらをつかまれた。 チャラララチャッチャ チャラララチャッチャ
ティンテゥンティントゥン ティントゥンティントゥン
ティッティティティティティン ティティティティッティン
「もうさ…俺たち一回距離あけようよ」miss シュコン
『MODE CHANGE CHALLENGE!』
『EXTREME MODE START』
「私なんて死ねばいいんでしょ?!」
「は?」miss シュコン
ゲージが全回復した。けど今の1つのmissでゲージが半減する。チャラララチャッチャ
いや…ゲージなんで気にするな。俺はメンヘラ音ゲーをやめるんだ。 チャラララチャッチャ
「私のこと嫌いなんでしょ?わかってるからもういいの!死んでほしいからひどいことするんでしょ!」
「そんなわけな「うそつき!」 miss シュコン miss シュコン
「話聞けって!死ななくていいよ。ちょっと距離をあけようって」miss シュコン
「もういい!私が死ぬのがダメならあなたが死んじゃえばいいのに」
胸のあたりに衝撃が走る。 シュウウウイイイインン キラキラキラ
ふわっという嫌な感覚がして、結衣の泣きながら怒った顔が遠ざかる。ティッティティティティティン ティティティティッティン
何故か俺の背後にあるはずの金網は穴が空いていて、最悪なことに俺はそのまま背中を空中に放り投げる形になり青い空を見ながら落ちていく…。ティッティティティティティン ティティティティッティン
『
『
見覚えのあるピンクで縁取られた黒い文字が目の前に表示される。テンションの高い音声と共に金色の文字が表示される。
あー。夢で見たのはこれか。
『メンタルキューブ10個でリトライしますか?』
右上を見るとMCと書かれた四角いアイコンの横に×20と書かれている。これがメンタルキューブなんだろうな。
これを押したら、また先輩の病室からやり直しってわけか?とにかくなんでもいい。
落ちている俺の顔の前に3Dみたいに浮かび上がってきた銀色の文字のNOを指で触れて、そのまま目を閉じた。
このまま死ぬのかな…と思ってたら、俺の背中はやけに弾力のあるなにかに当たって地面が下に伸びた。
「ーーーっ!」
地面だと思ってたのは、その日たまたま張ってあったテントらしい。
テントの天井を破った俺は、更にその下にあった空のダンボールの上に落ちて、運がいいことに背中を打って少し呼吸困難に陥るだけですんだ。
その日は一日大騒ぎになり、屋上はしばらく立入禁止、結衣は停学、俺も先生たちにめちゃくちゃ怒られた。
屋上の金具に穴が空いていた原因は今もわからないそうだ。
…♪♪♪…
「大変だったみたいじゃん」
「…まぁな。なんだよ心配してくれたのかよ」
そんなことがあっても怪我がない以上シフトの穴をあけるわけにはいかない。
バイト先で思い切り伸びをしていると、騒動を耳にしたらしい彩花が話しかけてきた。
「もうメンヘラ音ゲーに悩まされないで済むと思うとスッキリしたぜ」
「え…」コン
「あー。こっちの話。気にすんなよ」
「あ…っ。その…」コン
なんとなく聞き覚えのある音を耳にした俺は、目を泳がせて、パッと見で明らかに動揺している彩花の顔を覗き込んだ。
「え…」
「ち、ちがうんだって」コン
「私は…別に」コン
彩花の瞳には見覚えのある画面が…俺の目には見えない、彼女だけに見えているであろう例の画面が映っていた。
『
『…
メンヘラマスター―MenHeller Master― 小紫-こむらさきー @violetsnake206
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