Stage2:BEYOND THE BURNINGLIGHT
「もう知らない!」
そう言った結衣は、ハロウィンで浮かれた奴らで溢れかえっているテーマパークの人混みの中へと走り出す。
『
『BEYOND THE BURNINGLIGHT』キラキラキラーン
きたきたきたー!全然理由はわかんねーし、せっかく忙しい時期にバイトも休んでネッズミランドに来たってのに…。 『3』ピコンッ
トイレに走るのに結衣に荷物持ってもらったからこのまま外に出られても困るしなー。 『2』ピコンッ
ここは追いかけるしかないよなーなんかスタートしてるし『1』ピコンッ
チャララチャララチャラララン ジャーーーーン
イントロが流れ始める中、なんだか笑えてきた俺はゆっくりと人混みをかき分けていく。 チャララララン チャラッチャー
ちょっとトイレに行っただけだってのに何が気に障ったんだよ。メンヘラはわからねーな。 チャララララン チャラッ
トイレに行ってる間…いや帰ってきたときか?俺の財布…職場へのお土産… チャッチャラチャ チャッ チャー
イントロが終わりそうなタイミングで丁度ファンシーなショップの壁に寄り掛かっている結衣を見つける。 チャーラーラー チャーラーラーラーラー
あたりを見回していた結衣の視線が俺を捉えたのがわかった。 ジャーーーーン ジャーーーーン
『申し訳無さそうな顔』 Good シャンッ
『小走り』 Good シャンッ COMBO:2
俺の行動が書かれたシャボン玉が弾けてスコアが出た。なるほど…こういう加点も有りなのか。 チャララララン チャララララン
「ごめん…探したよ…」Good シャンッ COMBO:3
「俺、何か結衣のこと傷付けることしちゃったかな…」 Good シャンッ COMBO:4
チャチャッ チャチャッ チャチャッ
「もういいよ…自分で考えてわからないならいい…」
きたきたー!この怒った理由をノーヒントで当てなさいクイズ。 ジャンジャン ン
やばい。選択肢が消えそう…とにかく適当にやるしかない…。 キララララララー
「と、トイレに走って行ってごめん…」bad コン
「俺、もう膀胱が限界で…」 bad コン
「そんなことじゃないよ!もう…私の気持ち本当にわかんないの!?」 バーニンライッ!!
うわーまじかー。コンボ途切れたー。ジャラッチャッチャ
今のミスのせいか、左上のゲージがゴリっと減った気がする。 ダムダムダムダム
なんとか挽回しないと…。彼女は黙ってる…。 ジャラッチャッチャ
「本当にごめん…」 Perfect キラキラーン
よっしゃ…!ゲージ回復ー! ダタタタタ ダタタタタ
こういうときは心と頭を無にして謝るに限る!ジャーンララ ララララ
無事に俺の手元に帰ってきて荷物とお財布ちゃん! ジャーンララ ララララ
『MODE CHANGE CHALLENGE!』
『HARD MODE START』 バーニンライッ!!
は?なにそれ聞いてないけど…?と戸惑う間もなく結衣が俺の手を掴む。 チャララララン チャラッチャー
「尊斗さ、私と来たのに、学校とかバイト先のお土産ばっかり探してて…私との思い出のものとか買ってくれようとしないから…」
「私なんてどうでもいいんだって思っちゃって…そうしたら悲しくなって…」
は?馬鹿じゃないの?俺がどれだけバイト先に頭下げて今日の休みをもぎ取ったと思ってるんだよ。さっきもなんかおそろいのマグカップがついてるお菓子買ったよな? チャララララン チャラッチャー
っていうか一気に選択肢が増えた!?なるほどこれは難易度上がったんだな? チャララララン チャラッ
譜面の密度があがったのと同じだな。ここは落ち着いて…っと心と頭を無にして最適解を叩くだけ…最適解を叩くだけ…。チャーラーラー チャーラーラーラーラー
「ごめんな結衣」 Good シャンッ COMBO:2
「…俺、自分のことしか考えてなかった…」Good シャンッ COMBO:3
「結衣との記念のもの…後で内緒で買おうと思ってたんだ」Perfect キラキラーン COMBO:4
「ネッズミランドの中をもっと見てさ、いいものを買って驚かせようって思って…」Perfect キラキラーン COMBO:5
「でも不安にさせたら意味ないよな…ごめん」Perfect キラキラーン COMBO:6
ジャジャジャジャッ
連続Perfect決まった…。キュインキュインキュインキュイン
正直記念の品のことなんてすっかり忘れていた。後で何か買わなきゃな…クッソー財布は取り戻せても中身は出ていくのかー。ジャジャジャジャッ
結衣は口元に両手を当てて少し黙ったあと、上目遣いでこっちを見てくる。 ジャジャジャジャッ
「そうだったの!わたしってば…勘違いしちゃって…。ごめんね尊斗…」
「いや、本当にごめんな。結衣、好きだよ」Perfect COMBO:7
『CONGRATULATION!』 ババーーーン
メンヘラ音ゲータイムが終わってドット疲れが襲ってくる。クリアボーナス!!メンヘラキュゥゥッブゲット!!チャリンチャリンチャリンチャリン
顔に出したらまた結衣の機嫌を損ねて音ゲーが始まりかねないので顔には出さないように気をつけたまま俺は、差し出された結衣の細い手を取った。 ピコピコピコ ッピーーーン ランクS
スコアはあがった。でも難易度も上がっていく。
難易度が上がると、多分ミスをしたときのゲージの減りも大きい。
機嫌よく鼻歌を歌いながらカボチャとガイコツの可愛いぬいぐるみやストラップを見てる結衣を見ながら、俺は先輩の「脳と心を無にしてすれば成功はするんだけど、成功し続けた先にあるものは結局虚無なんだよ」という言葉を思い出していた。
…♪♪♪…
「尊斗最近元気ないじゃん。また彼女と喧嘩?」
コーラをニコニコしながら差し出してきた彩花に文句を言う気にもならなくて、「あー。まー喧嘩はないんだけどさ」なんて気の抜けた返事をする。
受け取ったコーラを飲もうとすると、隣に彩花が腰を下ろした。そういえばこいつも上がり時間か…と時計を見て気が付く。
「そういえばEGOのイベントやってる?わたしどうしてもあのボスが倒せなくてー」
「あー。アレ、男性特攻ある弓兵ならすぐ倒せるよ。貸そうか?」
彩花が話し始めて、一瞬音ゲーが始まらないかビクッとした自分にちょっと嫌気がさす。やっぱり人間の会話を音ゲーでやりすぎるのは良くない。
それと同時に、こいつには不機嫌にならないかどうかビクビクしなくて済むし、気を使わないで話せるんだなってホッとした。
「え?ホント!?貸して貸して…ってフレンド登録してないじゃん」
「いいよ、ほら。フレンドになろ」
そのままゲームの話で盛り上がって結局バイトが終わってから二時間も過ぎてしまっていた。
「遅いから駅まで送る」
「え?二人になっちゃうし彼女さんに悪いよ。駅まで近いし…さ?」
「そんなの気にすんなよ。こんな時間に一人で駅まで行くのは危ねーだろ」
自転車は彩花を送った帰りに取りに戻ればいい。
駐輪場で立ち止まる彩花の手を取って軽く引っ張ると、彩花は眉尻を下げて少し困ったようにしながらも、俺の手を握り返した。
その手のぬくもりと柔らかさにドキドキして、手に変な汗をかいてないか気にしないふりをしながら駅の方へと歩いていく。
「ありがと。尊斗やさしいじゃん」
「おう…。気にすんなよ」
「彼女さん羨ましいな」
心臓がバクバクして、彩花の顔を見れなかった。
そのまましばらく何を言っていいのかわからなくて、無言で歩いていたら、すぐに駅に到着した。
小さな駅の改札でこっちを見て手を小さく振った彩花の顔が、なんとなく赤くなってる気がしてポケットでうるさく震えているスマホの電源を切ってそのままバイト先へと戻った。
スマホの電源を入れる気にはならなかった。どうせ結衣からだろうし。
音ゲーの先にあるものは虚無。わかってしまった。
機嫌を取って、求められてる言葉だけ与えても俺と結衣のどうしようもない温度差とかすれ違いは埋められない。
自転車にまたがって夜道を走る。
家に付いて、心配していた親にも返事を適当にして部屋へと急いで向かう。
頭の中で妙にカッカとする部分と、冷めてる部分があることを自覚しながら俺はスマホの電源を入れた。
「ぅおお…」
ロック画面にびっしり浮かぶ通知の数々を見てうめき声を漏らしたけど、決意は硬い。
結衣からのメッセージを適当にスクロールだけして、自分の用件を送ってスマホの電源を落とした。
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