メンヘラマスター―MenHeller Master―

こむらさき

Stage1:生存本能バーサーカー

「私なんて死ねばいいんでしょ?!」


「は?」


「私のこと嫌いなんでしょ?わかってるからもういいの!死んでほしいからひどいことするんでしょ!」


「そんなわけな「うそつき!」


「話聞けって!死ななくていいよ。ちょっと距離をあけようって」


「もういい!私が死ぬのがダメならあなたが死んじゃえばいいのに」


 胸のあたりに衝撃が走る。

 ふわっという嫌な感覚がして、結衣ゆいの泣きながら怒った顔が遠ざかる。

 倒れると思ったらそこには床なんてものはなくて、俺は青い空を見ながら落ちていく…。


GAMEゲエエエエイム OVERオーバーーー


 やけに軽快な音楽とキラキラしたピンクと紫がちらばっている半透明の画面が急に目の前に現れ、テンションの高い音声と共にピンクで縁取られた黒い文字が表示される。

 なんだこれ?


『メンタルキューブ10個でリトライしますか?』


 メンタルキューブってなに?とにかくなんでもいい。

 落ちている俺の顔の前に3Dみたいに浮かび上がってきた銀色の文字のYESを叩くようにして連打した。


…♪♪♪…


「おい…尊斗たかと、起きろよ」


「…は!」


 聞き覚えのある声で目が覚めてあたりを見回す。

 目の前で呆れたように微笑む村上むらかみ先輩を見て、そういえば自分が見舞いに来ていたことを思い出す。


「いやー最近寝不足で…。すみません」


「早くメンヘラとは別れろよー?」

 

 先輩は笑いながら俺の肩を叩く。

 吊られてギプスで固められている右足が痛々しい。


「いやいやいや…メンヘラに刺されて階段から転げ落ちて入院してる人に言われても説得力ないですよ…」


「これで終わるなら入院も悪くないって思っちまってな…」


「あ!そういえば先輩のせいで変な夢見たんすよ…彼女に突き落とされたら目の前にリトライしますか?って出てきて…。ソシャゲのやりすぎですかね」


「メンヘラとの会話って音ゲーじゃん?」


「いや、夢の話はしてるけど音ゲーの話はしてねぇっす。

 …階段から落ちた時に頭打ったんですよね?もう一回精密検査したほうがいいんじゃないですか?」


「まあ聞けって。

 会話音ゲーは脳と心を無にしてすれば成功はするんだけど、成功し続けた先にあるものは結局虚無なんだよ」


「はいはい。色んな意味での先輩からの忠告、頭の片隅には残しておきますよ。

 じゃ、これからまたバイトなんで。退院したらまた遊びましょ。連絡ください」


「おう」


 片手をあげて微笑んだ先輩に俺も手をあげて返す。

 そのままドアを閉めてエレベーターへ向かいながらスマホの電源を入れ直した。


「ぅおお…」


 ロック画面にびっしり浮かぶ通知の数々を見て思わずうめき声が漏れた。

 全部俺の彼女…結衣からのものだった。

 メッセージ見て既読つけるのもやだし、とりあえずバイトに向かおっと。

 スマホを放り込むようにバッグに入れて自転車に乗った。

 15分も走ればいつもの見慣れた青い看板のコンビニに着く。


「尊斗っ!ギリギリじゃん」


「おお…。彩花あやかか…。脅かすなよ」


 バックヤードから出てきた俺の目の前を横切る影に思わずビクッと身体を竦ませる。

 そんな俺を面白がってからかうのは同僚でもあり、クラスメイトの彩花だった。

 高い位置で一つにまとめられた染めたことも無さそうなキレイな黒髪が揺れる。


「また彼女が突撃しに来たと思ったの?ビビリー!それなら連絡返してあげなよ」


「うるせっ!色々準備がいるんだよあいつへのLINEの返信ってやつは」


 尻ポケットで通知で震えまくるスマホから意識を反らすように、戯れついてくる彩花に悪態を吐きながら仕事を始める。


「じゃ、先に休憩はいるね。忙しくなったら呼んで」


 一通りレジの金額確認もしてカウンターFFの補充も終わったところで彩花は一足先にバックヤードに入った。

 やっと一人になったし適当にサボるかーと伸びをした俺の視界の隅をなんだか見覚えのある影が通った気がして嫌な予感とともに入り口を見つめる。


「っうっっわ」


 自動ドアが開いて、見覚えのある影が気のせいなんかじゃなくて、紛れもない自分の彼女だったことに驚いて、いらっしゃいませよりも先に悲鳴のようなものが口から漏れた。


「尊斗っ!」


 怒り狂った顔で俺の目の前に真っ直ぐ来た結衣は、バンっと音をさせながら両手を

カウンターに叩きつける。連絡返さないのは悪いと思ったけどまたバイト先に突撃しに来るとか正気かよ。はー。おっぱいは大きいのになー。


「なんで連絡くれないの?」チャララチャララララーーン


 言い訳どうしよっかなー。え?何今の効果音みたいの?


MenHeller Masterメンヘラマスター BurningLight Stageバーニングライトステージ』キラキラキラシャラララーン


 目の前に唐突に現れた半透明のゲーム画面のようなものに戸惑う。目の前の彼女はそんなこともお構いなしに怒った目で俺のことを見てる。

 え?なに?待って…俺からの連絡がないことよりもこの面白画面がいきなり目の前に現れたほうが気になるでしょ?ならないの?


Stage ステーィジ1ワーン!』ズキュキュキューーーン


 ピンクと黒を基調にした可愛らしいフォントが目の前に浮かんでくる。なにこれ?音ゲー?


生存本能セイゾンホンノウバーサーカー』キラキラキラーン


 目の前の画面が移り変わり、曲名らしきものが出ても目の前にいる結衣の表情は変わらない嘘だろ。どんな胆力だよ。おかしいでしょこの状況。

 半透明の画面の中央に薄い円が浮かび上がる。結衣はキレた表情のままこっちを見てる。あれ?もしかしてこの画面俺にしか見えてない?


『3』ピコンッ

『2』ピコンッ

『1』ピコンッ


 チャラチャラチャラチャラララ ドコドン チャラチャラチャラチャラララ タタタタタッ ドコドン


 軽快なリズムが店内のBGMの代わりに俺の頭の中に流れ始める。

 

「ねぇ!黙ってないで答えてよ」


 結衣の言葉に反応するように、目の前に浮かぶ画面の下部に3つの選択肢がシャボン玉のようなものに包まれて浮かんでるのが見える。


「は?なんだよこれ」miss シュコン

「意味わかんねーよ」bad コン

「え?え?」 miss シュコン


 俺の話した言葉が文字になったかと思うと、シャボン玉を割って真ん中の薄い円の中に吸い込まれていく。 チャラチャラチャラチャラララ

 シャボン玉が弾けた横に文字が出ると同時に耳障りな音が響く。 ドコドン

 音ゲーだ…。とにかく、これは俺にしか見えてないっぽい。 チャラチャラチャラチャラララ タタタタタ

 つまり…左上のゲージが空になったらアウトなんだな? チャラチャラチャラチャラララ-


「何その態度?真面目に私の言うこと聞く気ある?」


 よーし!きたきた。 キュキュキュイーン チャララチャララララーーン


「ごめんな結衣」 Good シャンッ

「俺も慌てちゃってさ」Good シャンッ COMBO:2


 シャボン玉の中にあった言葉を口に出してみると、真ん中の透明な円にセリフが書いてあるシャボン玉が吸い込まれてキラキラしたエフェクトが出る。 チャラチャラチャラチャラララ

 会話は音ゲーだよって言ってた先輩の意味がわかった気がする。いや、こういうつもりで言ったんじゃないかもしれないけど。 ベベベベベ シャラララー


「驚いたけど、やっぱ結衣が会いに来てくれて嬉しいよ」Perfect キラキラーン COMBO:3


 虹色に光って消えた文字の後、結衣の怒ってる表情が照れたものに変わる。 チャラッチャラッラッラ

 なるほど。タイミングよく結衣が欲しい言葉を投げればいいんだな?チャラッチャラッラッラ


「そ…そっか。私もなんかカッカしてごめんね。早めに連絡ちょうだい」


 タカタカタカッ シャンシャンシャンシャン


「おう。返事出来なくてごめんな」Perfect キラキラーン COMBO:4

「気をつけて帰れよ」Perfect キラキラーン COMBO:5


 顔を赤らめた結衣が背を向ける。 ジャジャジャジャーン タカタカタカッ


『CONGRATULATION!』 ババーーーン


 おおー!ナイスー!これで終わりかー。クリアボーナス!!メンヘラキュゥゥッブゲット!!チャリンチャリンチャリンチャリン

 いつもはキレ散らかされるのに今回はあっさり終わったな。音ゲー様様ってやつ?仕組みとかよくわかんないけど。 ピコピコピコ ッピーーーン ランクB

 よくゲームで見るリザルト画面のような物が浮かんだあと、何もなかったように半透明な画面は消えた。

 休憩から戻ってきた彩花にガッツポーズを見られて不審な顔をされたけど、面倒な彼女との会話が楽になった俺には些細な問題だ。

 気分がいいと仕事中も身体が軽い。いつもよりやる気に満ちて元気よく帰路につこうと自転車にまたがった俺の頬を冷たいものが触れる。


「っうっわ!」


「尊斗おつかれ。今日頑張ってたじゃん」


「ま、まぁな」


 振り向くと、彩花が笑って俺の後ろに立っていた。

 頬にあたったものは彩花は持ってる缶コーヒーだということに気が付く。 


「彼女さんと仲直りできてよかったね。今度からはちゃんと連絡返すんだぞ」


 彩花と話すときは謎の画面が現れないことにホッとしたような残念なような気持ちになりながら手渡されたコーヒーをカゴに放り込んだ。


「うるせぇ!わかってるよ。じゃあな」


 あれ?なんで彩花が彼女と仲直りしたの知ってるんだ?バックヤードにまで聞こえてたのかな…まぁアレだけ大きな声出してればわかるか。

 自転車を漕ぎながらそんなことを考えているとポケットに入れているスマホがブルルっと震えたのがわかった。

 信号で止まって確認すると、予想通り結衣からだ。めんどくさい。またあとでいいや。

 そのままカバンの奥にスマホを仕舞い込んだ俺は帰って眠るまでそれを取り出すことはなかった。


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