第12話 緊急ボタン
今夜の夜勤は、初っ端からの内線電話から始まった。
「松本、早速で悪いが、
身体に配線を繋げて半睡眠状態になり、感覚器官をVRの世界に接続させる『ゴーストダイブ』をするタイプのVR機器、機内には何かあった時に押される『緊急ボタン』が設置されている。それを押すのは、緊急事態だと言う事だ。
しかし、俺にとってはいつもの事。とりあえずの工具類の準備をし、社用車に乗り込んで出発する。事故を起こさないように、ゆっくりマイペースで。
指定のあった個人宅に到着し、インターホンを押す。すると「はぁーい」と、気の抜けたような返事が返ってくる。おそらく『ゴーストダイブ』をした直後で、意識が
いつものように俺は応対する。
「夜分遅くに申し訳ありません。タカハシ電子サービスです。VR機器の非常ボタンが押されているようですので、様子を伺いに参りました」
少し間があってから、玄関の鍵が開けられて家主が出てくる。これから夜食でも食べようというのか、上下とも野暮ったいスウェット姿だった。
「あー、お疲れ様です。何か変なものでも押しちゃいましたかね?」
「おそらくそうだと思われます。ちょっと点検をさせて下さい」
当人もわかってないのだろう。ともかく中に入れてもらう事に。
室内に入ると、棺型のVR機器が鎮座していた。『TT-101 ver.2』。以前に扱った最新機器の1個前のバージョンの機器だ。
この機器には、実は厄介な難点があるのだ。それは、何かあった時に押す『非常ボタン』が、中に入る人の右手の手元にあり、ちょっとした事で押されてしまうのだ。
『ゴーストダイブ』形式で仮想空間に潜っている時、ちょっとした反応で身体が動いてしまう事はよくある事。そのため、今は押されないようにカバーが取り付けられているのだが、そのカバーすら凹ますように力強くボタンを押される事も珍しくないので、こうやって出動する事もある。わかっていたので、非常ボタンを押されてもマイペースで出動したのだ。
「あー。やっぱり非常ボタンをカバーごと押しちゃってますね。カバーを取り替えておきますので」
カバーはネジ式で取り付けてあるので、交換も簡単なもの。ものの2分ほどで作業は終了した。
「今回の対応ですが、契約の範囲内ですので、料金はかかりません。では、こちらの報告書にフルネームでサインを」
いつもの定型文の終わり文句を語り、サインをもらって終了と相成った。
どんな機械であろうと、不具合というものはある。特に今回は、機器の設計ミスなのだ。対応もいつもの事。ただ、繰り返しボタンが押されてしまうのが厄介な所だ。
早めに機器の入れ替えをしてもらいたい、そう思いながら、会社へと戻るのだった。
トラブルシューターなんて、こんなモノさ。 皇 将 @koutya-snowview
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