第6話 潜む不安
三羽が見つめる先で、三人は話し合いを始めた。
「……こういう時は、それぞれの戦闘スタイルで考えるべきじゃないか」
最初に提案したのは、
「お前は短刀で、お前は傘だったか? んで俺が」
「そういえば、お前の
嫌そうな顔で、
「……好かぬな」
「そうか? 武器って言われたら、銃が頭に浮かんだんだから仕方ねぇだろ。剣持つのはたるいしよ」
「そんな理由なのか……。撃たれる方の身にも、少しはなってほしいものじゃ」
「――ああ、そういうことか。
夕雨の言葉に何か感じとったのか、煙羽はそれ以上何かを言うことをしなかった。
「でも、その考えはいいと思います」
「そうじゃな。普通に考えて、我が
「てことは……、遠距離からの攻撃は俺がするべきなのか?」
「そうですね、そうなるかもしれません。ただ、私も遠距離攻撃はできますよ。前に出て戦うのが苦手なだけで」
「……なるほど、大体わかった。そこらへんのこと頭に入れて考えていこうぜ」
思案するように、煙羽は腕を組んだ。潮里も首を傾げて考えている。
夕雨はというと難しい顔をしている。この手のことを考えるのは、少し苦手なのだった。
そのため話し合いは主に、煙羽と潮里が行うことになった。
二人は夕雨に確認を取りながら、一つ一つのことを決めていった。二人が戦った時の情報を元に考えていく。
この作戦で鍵となるのは、影食いの注意を引きつけることになる夕雨だ。夕雨の動きに合わせ、残りの二人が動くことになるだろう。
「――大切なのは、影食いに全員同時で攻撃を浴びせることだと思います。単体の攻撃では、倒しきれないと思います」
「そこだけは実際に戦う時に、タイミングを計るしかないだろ」
煙羽は、三羽いるワタリに目を向けた。
「お前らに教えてもらってもいいしな」
「はあ……また、風を起こされたら駄目かもしれませんが。最善はつくしましょう」
夕雨のワタリが小さく答えた。他の二羽もうなずく。
「……ふむ」
状況を眺めていた夕雨は、二人に顔を向けた。
「これでいいのではないか? 作戦はもう固まったと言えるであろう」
「ですね」
潮里はうなずくと、確認するように煙羽に顔を向けた。煙羽も黙ってうなずいた。
「……行こう。案内してくれ。そいつがいるところまで」
そう言うと、煙羽は素早く立ち上がった。
そんな煙羽を夕雨は不思議そうに見つめた。
「……意外に、やる気あるのじゃな」
「あっ? 面倒なことは早く終わらした方が楽だろうが」
「なるほど……。そういう理由なのか……」
夕雨は納得したように何度かうなずいた。少し、煙羽のことについて理解できたような気がしていた。仕事はするものの、どうやらそこには早く終わらせるという考えがあるようだ。
夕雨も立ち上がると、その手に
「――
死神は一瞬で行えるが、転移の技は本来準備に時間がかかる。力も使うため、いつもなら影浪が進んでやることのない技だ。実際、煙羽はここに転移するのにかなりの時間がかかった。
そのため一番力の強い夕雨に、転移を任せることにしていた。状況を考えれば、影食いの下に早く行った方がよかったからだ。
準備している夕雨を待ちながら、潮里は立ち上がると煙羽に近づいた。
「あの」
小さな声だった。
「なんだ」
「その……。無理はしないでくださいね。本当に強いから。私たち、消えそうになったから」
潮里の目は、不安げに揺れている。
「倒しに行って、私たちの中で一人でも消えたら意味ないでしょう? だから、危なかったら
「…………」
煙羽は、すぐには答えずに潮里の目をじっと見た。
そこには、彼女が消されかかったということの他にも不安の要素があるような気がしたのだ。
だが、彼は何も訊こうとはしなかった。そのことについてあまり興味を覚えていなかった。
「わかったよ」
短く答えると夕雨に足を向けた。
夕雨の周りには、赤い光が段々と浮かびつつあり、それが宙で円状に広がっていく。やがて、その円は三人が入れそうな大きさになった。
夕雨は目を開けると、二人を振り返った。
「とりあえず、山の近くまで送ろう。影食いが移動している可能性があるからな。あの場所からは距離を置く」
「おう」
煙羽は近づくと、宙にできた円の中に入った。三羽のワタリも飛んでくると、夕雨の足元に集まった。
夕雨はそれを確認すると、潮里に顔を向けた。
「どうした? 行くぞ?」
「……はい」
目を伏せて考えていた潮里は顔を上げると、大きくうなずいた。
潮里は作戦が成功することを祈りながら、円の中に入った。自らの中にある不安を忘れようと、笑みをつくる。
大丈夫だと自分を励まし始めた潮里の足元で、三羽のワタリは顔を見合わせていた。そのワタリたちが感じているのも、潮里と同じような不安だった。
「――転移、開始」
短剣を横に構えていた夕雨の言葉と共に、赤い光が円を中心にしてはじけた。影の世界に赤い光が舞いあがり、円の中にいる影浪たちの姿を覆い隠した。
そしてその光が途絶えたとき、そこには誰もいなかった。
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