第4話 その日のために

「それでは、これにて全ての手続きが終了いたしました。」

 鞄にサインした紙を入れ、ペンは胸ポケットに挿した。

「本来ならば…。」

 すまなそうに言っているのが声のトーンからも伝わる。

「専用の待機場所へ移動していただくのですが…。」

「もしかして…。」

「はい。ご察しの通りパンクしております。」

 想像するのは《火を見るより明らか》と言う言葉を思い出した。

「ここで、お待ちいただく事になります。」

「仕方ないですね。」

 髑髏は頭を下げ、

「そう言っていただけると…。」

 手にしていたタブレットを差し出した。

「こちらは無料の貸出サービスとなっております。ご自由にお使いください。」

 受け取り画面を見ると、先程のよめない文字ではなく普段使っているよく知ったものに変わっていた。



「転生先で使える学問を勉強するのがよろしいかと…。」

 先程の言葉を思い出し、

「ここでの記憶は消えるのでは?」

 気になった事を効いた。


 髑髏に表情があるのなら、驚き感心したが見て取れただろう。

「流石、転生者希望でいらっしゃる。先程といい、鋭い観察力感心いたしました。」

 立ち上がると帽子を脱ぎながら一礼し、

「ご安心ください。記憶は消えますが、知識は残ります。」

「そういうことですか。解りました。」



「では、私はこれで…。」

 鞄を手にした。そして、何か思い出したように、

「忘れておりました。」

「なんでしょう?」

「そのタブレットでお買い物ができるのですが。」

「えっ…。通販できるのですか!」

 また、驚いた。

「はい。欲しいと思うものは一通り買えると思いますが…。」

「それは凄い。」

「お支払いが…。」

 その時、初めて自分の服装が気になった。イメージに一番近いのは上下白のジャージ。普段なら財布が入っているであろう場所を手で探るが手応えはない。

「財布が…。お金が無い。」

「いえいえ。ここでのお支払いは、転生後のツケ払いとなります。」

「転生後!?」

「はい。あまり買い物されると転生後にお金で苦労したり、過酷な運命が待つ事になります。」

「解りました。気を付けます。」

「お気を付けください。」

 一礼。

「それでは、改めまして…。」

 その言葉を遮り、電話の呼び出し音が鳴る。

「失礼。」

と、内ポケットからスマホを取り出し、「はい。」

 スマホに向いお辞儀をした。ここでもやるんだと少し可笑しくなった。

「解りました。直ぐに向かいます。今、出先ですからデータを送ってください。」

 電話を切ると、こちらを向き、

「重ね重ね、失礼しました。」

 諦めの様な感じで、

「もう、次の転生希望者です…。」

と、欧米人の様に両手を上にして肩をすくめる仕草をした。

「これにて、さらばでございます。良き転生者ライフをお楽しみください。」


 クルリと振り向き歩き出した後ろ姿は、直に白い靄に溶けて消えた。



 俺は、渡されたタブレットを見つめ、

「さあ、勉強しないとな!」

 気合いを入れる。


 転生できる、その日の為に!



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