第2話

ハインリヒ君は俺の意識を乗っ取ろうとしたのかな。

それとも単に記憶を流しただけなのか。

どちらにしろ20年分の記憶を流されたら頭がおかしくなるわけで、どちらにしろ彼に能力を使うのは正解だったと言えるだろう。


能力のチュートリアルみたいでむかつく。


でもチュートリアルって大切さ、一般人が一瞬で溜め攻撃や二段ジャンプを使うことができるようになる。

俺だってお友達を1人増やした。

見えない友達が見える精神異常者にグレードアップして欲しい。

スキルツリーには発狂とか書いてあるんだろう。

いらねぇな。


さて、ハインリヒ君は少々まずい状況らしい。

圧政に圧政を繰り返してみたら市民が暴動を起こし、最悪の場合は内戦になるかもしれないという状況を作った。

最高のプロデューサーさ彼は。

内戦とは言え、ファシストと民主主義の対決って訳ではなく市民らが現国王の弟にあたる人を担ぎ上げた。

担ぎ上げられた側はたまったもんじゃなくすぐに降り、なんも載ってない神輿は豚箱へ直行、殺処分された。


万事めでたしという訳ではなく、こんな状況を作ったハインリヒ君には王都へ出頭命令が出ている。

普通なら爵位返還の没落か死刑、どちらも一般市民にとっては悪徳領主断罪劇として爽快な気分になるだろう。

みんなが笑顔なら俺も嬉しいさ。

俺も劇に連れて行ってくれよ。

出て来た客には祝福をプレゼントさ、すぐに幸福な国の民になるっていう。


が、生き返った瞬間に死ぬというのも目覚めが悪い。

手違いでもなんでも無い訳だから人間には転生できないだろう、次に生まれ変わるときは…ニホニウムってやつはどうだろう。

まだ新しめだから新規テナント募集中だろう。


話を戻すとこのままだと死ぬ、出頭命令は15日後まで。

さて計画を説明しよう

その1、没落および死刑を許容する。

コンプライアンスの精神。

その2、何か武勇を立てる。

そうすりゃ大衆は刑を望まない。

国は市民からの人気によって成り立つ。

その…いやいいや。

結論は決まっている。

分かりきったことだろう。

30日逃げ切り、王の前で能力を使う。

以上だ。

ようはなんらかの理由をつけて30日王都へ行かない。

さて、そうなりゃ決まりだ。

必要なのは情報。

頭の辞書をサーチしているといくつか興味深い情報が手に入った。

どうやら今我が領土は荒れに荒れているらしい。

治安維持のため、我々は…無理だな。

王令である。

そんな理由ではだめだ。


そうこうしているうちに執事がやって来た。

ノックがされる。

「入れ」


失礼しますと入って来たのは初老、白髪、髭と三点セットをつけた執事だった。

これ以上ないくらいの執事である。

名前がセバスチャンなら完璧なんだが最後の最後で違うらしい。

名前の間違いといったら0点以外あり得ないだろう。


そんな名前以外100点執事の名前はトルストイ、ロシアにありそうな名前だ。

この世界の地図で最も巨大な国は帝政だ。

そして彼はそこ出身。

我が国とは非常に友好。

MR協定でも結びたい。


そんな彼は非常に有能で、俺(ハインリヒ)のために尽くしてくれている。

よって敵ではない事は確かだ。

しかし彼に俺の正体を明かすとどうなるか分からないので、ハインリヒとして振る舞うのが吉だろう。


「ハインリヒ様」


「なんだ」


「朝食の準備ができました」


「うむ」


特筆すべき事はない。

そのまま特筆すべき事はないまま朝食を食べた。

味は良かった。

水が合わないかもと思ったが味覚も変化しているのかもしれない。


さて、俺はそのあと地下の金庫へ行き、持てるだけの金を持ち。

一階の窓から飛び出し。


走る。


門番に見つからないように屋敷の外へ出て、逃避行を開始した。


そう、なんてったってこんな所に居なければいけないのだ。

普通に街で商人でもやった方が遥かにマシだろう。


…貴族なんてやってられっか。

盗んだバイクはないけど金はあるのでやってけるだろう。


山道を走る。

森の色は濃く、空は薄く。

空気は自然の味がした。


注釈的なの

●セバスチャン

元ネタは白髪でもないし髭も生やしてない。

●MR協定

独ソ不可侵条約とも言う。

結局破棄されたが連合の対応によっては独ソ同盟もあり得ない話では無かった。

●盗んだバイク

15の夜。

10年以下の懲役、50万以下の罰金になるので行わないように。

金を盗んでも変わらん。

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仲間を作る能力って素晴らしくない? @Seeton_novel

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