仲間を作る能力って素晴らしくない?

@Seeton_novel

第1話

神による手違い的なアレによってチート能力を貰って異世界に行くことになった。

簡単に語ってはいるが、憤慨したり喚いたり泣いたりした上の話になる。

見苦しいのであんまり見せたく無い。



別に泣きわめく姿を語るのはいいが冴えない中年男の騒ぐ姿ほど軽蔑されるものもない。

一周回ってコメディだろうか。

それはともかく、どうやら神は例によって中世が好きなようで俺は中世に飛ばされることになった。具体的には百年戦争あたりがmy bestと神は言っていた。

畜生と無能の戦いなんて嫌気がさすのが普通だが、そいつを気にいるなんて神ってやつは性格が歪んでいるらしい。

で、もらった能力っていうのも、そんな性格から来ているのか知らないけれど。


仲間を増やす能力


1ヶ月に1回使用できる能力で、使われたらどれだけ嫌いな奴だろうが最高の友人になれるって話だ。

どっかの猫と鼠はもちろん、犬と猿だって仲良くできる。

犬猿の仲ってアイデンティティの崩壊だ。

能力を行使された側が一方的に行使した側にぞっこんなだけであって俺には実害はない。

都合の良い能力だが、都合のいい友人なんてどちらかの媚びによって作られるものだ。

催眠にかかっている方が幸せだろう。


果たして友人の定義を明確にできる奴はいるんだろうか、手元に辞書はないからなんとも言えないが親しい仲の人とかそんな感じに書いてあるんだろう。

親しいってなんだろうね。

でも神曰く、友人の頼みってなんでも聞けるよねって言っていた。

聞かないからこその友情だってあるんだろうが、そんな王道は求めていないらしい。

神だから許されるけど一個下の階級の天使なら即堕天である。

神なら横暴でもイメージの齟齬はない。


そもそも神が王道好きなら俺のステータスに勇者が入っていたはずだぜ?

正義感に満ちた少年ってプロフィール欄に書かれている事間違いなしだ。

死んだら王が復活させてくれる。


##


物語の多くは目がさめるところから始まるものだ。

なので、清々しい朝を迎えるために瞼を上げる。

目が開いたら何をするのかって?

みんな大好き背景描写さ

またの名を状況確認。


俺は柔らかな白いベッドの上にいる、気温は暑くも無いし寒くも無い、ベッドの横、俺から見て右側には木の窓があり、そこから入る光から察するに早朝だという事が分かる。

ベッドの左にはこれまた木材でできた丸いテーブルがあり上には水差しが置かれている。

さらに左奥には(当然のごとく木製の)机があり厚い書物が数冊、手触りが気持ちよさそうな羽ペンがインクとともに置かれている。

さらに俺から見て左斜め前には重厚な扉があり、自分がブルジョア側の人間であると感じられる。

目の前には十分なスペースがありその先にはクローゼットがある。

床は赤い質素かつ高級感あふれるカーペットが敷き詰められている。


ここから察するに俺は貴族である。

政争に巻き込まれなければ一般人より幾分か都合が良いだろう、もし俺が元々貴族ならそう言えただろうな。

つまるところ俺が貴族であると仮定した場合、全くなんの知識のない状態で放り出されているのだ。

自分の身分すら知らない、そもそも行き倒れのプロレタリアートかもしれないのだ。

と思ったが貴族である証拠を見つけた。

机の上には鏡があって、澄ました若者の顔が写って自我の崩壊を耐えることになったのだが、別にそこまでのダメージはなかった。

胡蝶の夢など我を思っていれば大丈夫。

まあなんだ?

実は描写していなかった部分がある。

申し訳ないとは思ってる。

無意識下における防衛意識がね?邪魔をしたようだ。

けれど防衛意識は降伏したようで。

俺はベッドから右斜め前にかけられた絵を見た。

ちょうど部屋に入ると真っ先に見える場所だ。

油絵っていうだろうか?

独特の色使いで描かれた素人目に見ても見事な絵は、鏡に映った自分によく似ていた。


その瞬間、頭の中に20年分の記憶が入ってきた。

誰の記憶かは言うまでもない。

耐え難い頭痛に這いつくばった。

頭を抱えた。

呻き声を上げた。

頭がオーバーヒートしそうになり、そこらかしこで細胞が悲鳴をあげ。

知識と頭痛で意識が遠のき、世界は黒に染まった。


要約するなら、見事な絵画に惚れ惚れして失神した訳だ。

いや、お恥ずかしい。

しかし真に芸術を理解した瞬間だと俺は思うね。

本物ってやつはこうまで人を痺れさせるらしい、強烈なスタンガンを食らった気分だ。

まあでもスタンガンでよかったよ、本当なら電気椅子に座らされる痛みを感じるところだった。

頭に乗っけるスポンジは乾いてるぜ。

でもそうならなかったのは親友、君のおかげさ。

次からはもっと少しづつ情報を送ってくれよな。

あんまり痛い思いをさせないでくれ。

親愛なるハインリヒ侯爵くん。


以下注釈的なの

●死んだら王が復活させてくれる

死んでしまうとは情けない。


●頭に乗っけるスポンジ

濡らしたスポンジを頭に乗っけて電流を流すと楽に死ねる。

電気椅子処刑の初期はそんなのなかったので楽に死ねなかった。


●ハインリヒ

ヨーロッパの性だが本編はあくまで異世界、深読みはしないように。


●侯爵

貴族の階級で公爵に次ぐ位、多くの場合、国でも有数の権力を持っている。

ここの方々にとっては常識かも知れない。


以下後書き的なの

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