第166話 優馬の後悔


 例の神社へ続く道を足早に歩いていると、後ろから声が近づいてきた。


「……はい。そう、その神社。俺ももう、すぐ近くに居ます……うん、わかりました」


 振り返ると、陽が電話しながら小走りにこちらへ向かっているのが見えた。優馬は握っていた携帯を内ポケットにしまい、足を止めた。


「どうりで繋がらないはずだわ。誰だ?」

「五島さん。なんか、話があるからこっち向かってるって」

「……そうか」



 追いついた陽は携帯をしまいながら、息を切らしつつも噛みつきそうな勢いで立て続けに質問をぶつける。


「で、あいつに会ったって?! どういうこと?何だって?……っていうか優馬さん、ずぶ濡れじゃん」



 優馬は言葉を探した。


 陽を呼び出した後、すぐ佐伯に電話し、大まかなことを説明してあった。新たな情報を元に、更なる調査をしてもらうためだ。


 だが、陽に説明するには……どう話したらいいのか、まだ決めかねていた。とりあえず、歩き出す。



「とにかく、神社に行く。電話で言った通りお祓いはまだ出来ないけど、家に居るよりはマシかもしれない。もしまた具合悪くなっても、お前を担いででも鳥居くぐるぞ」


「わかった」

 何の疑問も呈さず、陽は真剣な表情で頷いた。優馬に全幅の信頼を置いているのがわかる。


「あの神社は、あいつに勝てるんだね。この痣に、勝てるんだ」

 

 足早に歩く優馬の後を追いながら、期待のこもる声で確認する。


「……わからんが、何らかの力はあるみたいだ。ほら俺、栞の安産祈願で、あちこちの神社回って参拝してただろ? どうもそれが良かったらしくて」


「そっか。道端のお地蔵さんとかも合わせたら100回近く行ってたもんね」

「おう」

「子供出来て信心深くなったって言ってたけど、そういうのって本当に効くんだ」

「……おう」


 素直に納得している様子に胸を突かれ、優馬は俯いて足を早めた。陽はそんな優馬の想いに気づかず、急いで追いつき肩を並べる。


「それで? あいつと何話したの?」

「あー……あのな、お前は何も悪くない。お前のせいじゃないんだ」



………俺が、余計なことをしなければ。取材だなんだと引っ張りまわしたり、無理やり独立なんてさせなければ、きっと………


 罪悪感に苛まれ口籠る優馬の声は、陽には届かなかった。



「え? ちょっと、雨が強くてよく聞こえない。悪くないって、何が? ……ちょっと、ねえ、優馬さんてば!」


 焦ったげな声の陽が、雨の中を突っ切る様に歩いていた優馬の肘を掴む。ぐい、と肘を引かれた勢いのまま、優馬は振り返った。


「だから、とりあえず神社……」


 顔を上げた瞬間、優馬は陽の胸ぐらを掴んで引き寄せたかと思うと後ろへ突き飛ばした。そのまま躍り出るように立ち塞がった優馬に、黒い大きな影が体当たりした。


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