第144話 天翔ける不死鳥
どうしても空を飛びたいのだと、夏蓮は譲らない。
次の「不死鳥」をテーマにしたプログラムで、舞台上の空を自力で飛び回りたいのだと。
すでに夏蓮が練習を始めている「エアリアル」という技法は本来、天井から垂らした布を用い、主に上下方向に移動しながら空中でパフォーマンスを行うものだ。
だが夏蓮は、遠心力を使って布から布へ飛び移りながら踊り、回転し旋回し、優雅に空を飛んでいる様を演出したいのだと言い張っている。
そんなことが可能かどうかわからないし、そもそも危険過ぎる、と五島は反対した。それに対する夏蓮の返答は、「なら、危険じゃなくすればいいじゃない」の一言だった。
十分な安全策を講じ、無理のない、しかも美しい振り付けを考え、それを実現できる舞台装置を構築しろということだ。
スタッフ一同頭を抱えたが、夏蓮のイメージした振り付けを実際に見せられ、実現に向けて動かざるを得なくなってしまったのだ。
何も、そんなサーカスばりのアクロバットをやらなくても……とは思う。
だが、舞台上を縦横無尽に羽ばたき、より立体的に空間を使う演技が出来れば、爆発的に表現の幅を増やすことになる。それは、ダンス・演劇界の革命となるかもしれない。
そうなれば夏蓮は元より、チームスタッフ一同をもの名声までも、さらに高めることは間違いない。
よくあるワイヤーでの宙吊りじゃ駄目なのか? と聞けば、「ワイヤーやバンジーは動きが不自然だし、装備が美しくないから、嫌」と一蹴されてしまった。
あくまでも、自力で飛ぶのだそうだ。
「不死鳥が、吊られて飛ぶと思う?」
当たり前じゃないの、とでもいう様に普通に言い切られ、五島はついに覚悟を決めた。
有能なスタッフやアーティストを呼び集め、大金をかけて舞台装置を開発させ、舞台美術を作り上げ……そして何より、スポンサー集めだ。
広島での最終公演を終えての盛大な打ち上げの最中も、五島は休みなく動き回っていた。挨拶と賞賛、少しの社交辞令、そして限りない名刺交換の繰り返し。
当の夏蓮はというと、片半身が癒着しているのではないかと思える程 大月陽にへばりつき、腕を絡めしなだれかかりながら、あちこち引きずり回しては客らと笑いあっている。
大月陽も、昔のぎこちなさはとうに無くなり、上手く調子を合わせて楽しげに対応している様だ。
彼自身の売名にもなることだし、とつい意地悪く考えてしまいそうになるが、そこは夏蓮もお互い様だ。大月陽と木暮優馬関係の人脈、異なる分野での知名度に乗っかっている部分もあるのだから。
大月陽の夏蓮へ与える影響が日に日に大きくなる懸念はあるが、今は仕方ない。使えるものは全て利用しなくては。
夏蓮の夢の舞台を叶えるために。
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陽(夏蓮、平気で無茶言うなぁ)
夏蓮「絶対に出来るわよ。うちの、世界一優秀なごーちゃんだもの」
五島「!!(発奮)」
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