第142話 掲載記事2


 大月 陽(おおつき よう)25歳。


 趣味で描いていた絵で独立し、昨年9月アトリエを設立。

「肖像画の制作過程を記録した動画を特典として作品に添付する」という販売方法が話題を呼び、人気を博す。

 肖像画・人物画以外にも、抽象画、異素材を用いたアート、本の表紙や挿絵、衣服のデザインに至るまで、幅広く多彩な作品を生み出し続ける。

 海外での人気も高まっており、いつも髪を後頭部で一つに括っていることから、ファンの間では「サムライスタイル」と呼ばれ、愛されている。




ーー現在はプロの画家として活躍されている大月さん、普段は絵のことについて聞かれることが多いと思いますが、今回はライフスタイルについて伺ってまいります。

 さて、前回のインタビューから、もうすぐ4年です。独立されてだいぶ経ちましたが、環境の変化はありましたか?


「はい。当然ですが、絵を描く時間が増えたのと、集中できるのが嬉しいですね。起きてから寝るまで、ずっと描いていられるので」



ーー描くことが尽きたり、行き詰まったりはしませんか?


「いえ、それは全くありません。むしろ、描きたいものが後から後から湧いて来るので、追いつかないぐらいです。夜まで描いて倒れるように寝て、日の出前に絵に起こされるっていう……」



ーー絵に、起こされる?


「ええ。夢の中になのか、脳内なのかわからないですけど、イメージがこう………ダダダダダ~って押し寄せてくるというか、溢れ出すというか。で、『あああ! もうっ!』ってなって起きる(笑)」



ーー壮絶ですね。


「そうですかね。前からわりとそんな感じなんで、慣れてるんです。兼業だった頃は、絵に起こされて眠れずに徹夜で描いて、そのまま仕事したりとか。ボーッとしてると指を切り落としかねない仕事だったから、よく怒られましたけどね。独立してからちょっと重症化した気もするけど……体力的には、あの頃に比べれば楽になったかな」



ーー起きてからは、どのように過ごされるんですか?


「果物とかパンとか、片手で掴めるものを食べながら、湧き出てきたイメージをとりあえずスケッチします」



ーー食べながら描けるものなんですね。


「まあ、メモ代わりなんで、適当でいいんです。リンゴとかバナナとか齧りながら、こう、ザクザクと。ハタから見たらもう、ほぼゴリラです(笑)」



ーーゴリラですか。ワイルドな朝ですね(笑)


「おかげさまで」



ーーその後は?


「スケッチが終わったら、一応身支度して……あとはずっと描いてますね。で、昼食を摂ってまた描いて。いくつも並行して描いてるので、キャンバスを取っ替え引っ替えしたり、部屋の中をぐるぐる移動しながら、少しずつ仕上げていきます。」



ーー混乱したりしませんか?


「それはありませんね。完成形が頭の中にあるので、混乱したり迷ったり? そういうのは無いんです。むしろ、気分転換になります。

 他の方がどういう風に描いてるのか、僕は知らないんですけど……油彩だと少しずつしか描けないから、皆さん同じ様な描き方されてるんじゃないですかね? 違うのかな?」



ーー集中力の持続や体力の維持に気をつけていること、ストレスの対処法等はありますか?


「集中力……あまり気にしたことはありません。

 体力維持に関しては、ご飯をいっぱい食べることと、たまに走ったり、腹筋と腕立て伏せぐらいかな。

 長時間絵を描くのって、わりと体力筋力が必要なんで、例えば外の仕事なんかで絵を描く時間が取れない時に、集中的に筋トレするんです。夜中に人気のない河川敷を走ったりもしますね。

 ストレスは……よくわからない(笑)ストレス、無いかもしれない。なんかすみません」



ーーいえいえ。ストレスが無いって、羨ましい限りです。


「ええと……強いて言えば、もっと時間が欲しいとか、あと飯食うのめんどくさいなー、ってぐらいで。いっそ胃袋をこう、カートリッジ式にね、カシャーンって入れ替えて、『ああ満腹』ってなればいいな、と」



ーー無理やり捻り出していただいて、ありがとうございます(笑)食事には興味が無いのでしょうか?


「美味しいものを、親しい人達と楽しく食べるのは好きですよ。仕事で地方へ行って土地の物をいただいたり。でもそれ以外は、単なる栄養補給だと思ってます」



ーー「では他に……例えば、温泉に入ったり音楽を聴いたりドライブしたり、そういうリフレッシュ法などは?


「そういうの、全部絵に繋がるんですよね。温泉であれば、水とお湯の表現の違いとか、湯気や岩の質感をどう描くかとか考えちゃうし、音楽も映像がバンバン浮かんできちゃうし、本を読めば挿絵描いちゃうし……刺激にはなるんですが、リフレッシュとはちょっと違う気がしますね」



ーー以前、弊社のファッション誌でモデルを勤めていただきましたが、ファッションなどは?


「そ、その話は……恥ずかしいので、ちょっと。服は興味無いです」



ーー海外ではその髪型から「サムライスタイル」と呼ばれているそうですが。


「これも自分で切ってるんで。髪を摘んで目の前に持ってきて、チョキって切るだけだから簡単だし、楽なんです。べつにサムライとかは関係無いんですけどね」



ーー絵と切り離される、全くのプライベートな時間は無いのですか?


「そうですねえ。何を見ても、人と話している時なんかでも、つい無意識に色々観察してしまいますし……ああ、頭の中が空っぽになるという意味では、さっき言った、筋トレしてる時とか、夜中に狂った様に全力疾走してる時。あとは逆立ちしてる時ぐらいかな」



ーー逆立ち?


「はい。壁逆立ちってやつです。たまに無性にやりたくなるんですよねえ。でも最近は、部屋の壁じゅうに絵が立てかけてあるんでなかなか出来なくって……あ、これストレスだ。壁逆立ちの場所が無い! っていうストレス」



ーーなんか色々突っ込みたいんですが、時間と紙面の都合で割愛します。他に趣味とか、欲しいものとか、やってみたいことは?


「趣味……………物が増えるのは嫌いだし……やってみたいこと……うーん」



ーー海外旅行とか?


「…………美術館巡りとスケッチ三昧とかでも、いいですか? あ、なんか怒ってます?」



ーーいえ。徹底してるなあ、と感心しました。


「やっぱちょっと怒ってますよね? 話が広がらなくてすみません。ライフスタイルって難しいですね」



ーー(笑)

本当に四六時中、絵のことばかり考えてることが、よくわかりました。4年前のインタビューから何も変わっていない。むしろ、描くことへの情熱が強くなっているように感じます。


「はい。止まるところを知りません(笑)」



ーーでは最後に、前回と同様「今後の目標」をお聞きしたいのですが。


「目標かあ……死ぬまで絵を描き続けたいので、「健康維持」ですかね。めんどくさがらずに、ちゃんとご飯食べます」





 相変わらず絵を描くことを愛して止まない、そして天然っぽさがちょっぴり見え隠れする、大月 陽 さんでした。

 過去のモデル体験の話になると途端に口籠ってしまうのですが、描くことに関しては心から楽しそうに語って下さいます。

生活の全てが結局絵に繋がっていく、というのは、大月さんならではのライフスタイルと言えそうですね。

 因みに、髪を切るのには普通の文具用ハサミを使うそうです。


 来月より、大月さんの作品が元になった舞台 「光蟲 夜と戯れ」の日本公演が始まります。

 さきに行われた世界芸術祭での招聘作品で、次々に形を変える光の群れと踊るという幻想的な雰囲気の舞台だそうです。主演は舞踏家の煌月カレンさん。

 各会場入り口には大月さんの絵が飾られるということなので、舞台とともに、是非ご覧下さい。



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芹沢「髪を下ろしたりは?」

陽「顔が痒くなるからヤダ。坊主も剃り直すのがメンドイ。これが一番楽なんです」

菅沼「あー、髪下ろしたカット撮りたいなぁ」

陽「嫌です(キッパリ)」


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