第105話 取り扱い指南
古城巡りは夏蓮と陽ふたりだけで行かせ、五島は再び道場に顔を出した。別に気を利かせたという訳ではなく、五島にとってもその方がありがたかったのだ。
城なんて、一度見れば充分だ。
存分に汗を流し、合間に仕事の電話をいくつか交わし、道着のままパソコンを操作する日本人が面白いと子供達に纏わりつかれながら部屋の隅でメールを処理するうち、あっという間に一日が終わってしまった。
旧友達と楽しく食事をして帰ると、陽が冷蔵庫を漁っていた。
「ああ、五島さんおかえりなさい」
「ただいま。城はどうたった?」
「キンキラで凄かったっす。なんかもう、お腹いっぱいって感じで」
陽は眉を下げて笑った。言いたいことはなんとなく理解出来る。
「でも、色々と参考になります。本物見るのって、やっぱり違いますね」
「そうだな」
「あ、これ。貰って行きます。夏蓮さんからの指令で」
陽は手にしたワインと、つまみのパックをいくつか示した。
「貸してみろ」
五島は手近の皿を取り出すとパックを開け、生ハムとオリーブ、チーズ、クラッカーを手早く盛りつけた。
「こうしとくと、さらに機嫌が良くなる」
「……なるほど」
「あいつは人使いが荒いからな」
「ですね」
陽は声をひそめて笑った。
「でも、なんか夏蓮さんって思考回路とか言動が面白いです。日本人離れしているっていうか、とにかく周りにはあんまりいないタイプで。ちょっとキツいこと言われても、ああ、そっかーって」
「……あいつの両親祖父母は日本人だが、その前には外国の血が混じってる。そのずっと前にも、数世代ごとに一度、外の血が入ってきたそうだ」
「へえ、知りませんでした。でも、そっか。留学経験とか、そのせいなのかと思ってた」
「まあ、それもあるだろうが」
なるほどねえ、等と呟いているところを見ると、何か思うところがあったらしい。
「言葉がキツいのと我が侭は、単に性格だ。良くも悪くも、自分に正直でストレートだから」
「わかりやすくて、いいですねえ」
ニコニコと頷いている。
日本の若者だと、夏蓮のような苛烈な女性に尻込みするものも多い。この男は、度量が大きいのか、それとも単に鈍いのか。
「扱いは面倒だが、上手く操縦出来れば猛獣使いの気分を味わえる」
「あはは、酷い。まあ、俺には無理っぽいです」
カウンターの引き出しからフォークを2本取り出し、トレイに乗せてやる。
「ほら、早く行った方が良い。機嫌を損ねると面倒だぞ」
「あ、五島さんも一緒に」
「遠慮しておく。今日は早く寝るよ」
陽は頷くと「じゃあ、お休みなさい」と言い残し、花瓶から花を一輪つまみ取って皿の横に飾った。
ふむ。なかなか筋がいいじゃないか。
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夏蓮「ちょっと、誰が猛獣よ」
陽「夏蓮は女神様だもんねー」
夏蓮「……そうよっ (〃∇〃) ♪ 」
五島(なかなか筋がいいじゃないか……)
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