第75話 ふたりは今日も仲良しです


 断続的なシャッター音の中、大月陽は先ほどから、部屋の中央で手持ち無沙汰に突っ立っている。その背後で、木暮優馬が陽の作業台を占領しPCの画面に見入っている。


 菅沼は絵の写真を撮る傍ら、そんな二人を横目でこっそり観察していた。

 他人の部屋で我が物顔の優馬と、自分の部屋なのに所在無さげな陽の対比が面白い。

 優馬のFacebookに大月陽のブログのURLが貼ってあったのを見つけ、「写真が悪い。俺に撮らせろ」と捩じ込んだ甲斐があったというものだ。



「いやー、随分描き溜めたんだねえ」

「ええ。夏蓮さん絡みの依頼がいくつか重なったし、あと自分で自由に描いたのもあるし。描いた端からすぐに売れればいいんですけど、なかなか」


「これからだって。ブログのアクセス数もかなり増えてるし、こっちももうすぐ出来るから……」

 優馬が作業しながら口を挟む。


「よし、出来た。大月陽、公式Facebookだ」


 陽がPCを覗き込む。


「ふうん……わかんないけど、めんどくさそ」

「更新は俺がやるんだから、お前は関係ないだろ」


「俺の公式なのに、俺関係ないの?」

「そ。お前は指を咥えて眺めてなさい」


 陽が殊更に傷ついたような声を出す。

「ひどい。優馬パパ」

「お前のパパじゃねえ」


 優馬は回転椅子ごと振り返ると、陽の膝辺りを蹴る真似をする。



「相変わらず仲良しだねえ」

 写真のチェックをしていた菅沼は、笑いながらメモリーカードを抜き取ると優馬に手渡した。

 優馬はPCに写真を取り込み、掲載する写真を手早く選んでいく。


 菅沼は陽に手渡された冷えたペットボトルのお茶を開けた。


「そういえば、最初の取材から1年になるねえ。優馬くんはプレパパになっちゃうし、時の流れは早いやね。恵流ちゃんは? 元気?」

「はい、おかげさまで。って言っても、最近あんまり会えないんですけどね。お互い仕事が忙しいのと休みが合わないので……月に1、2回ぐらいかなあ」


「あらら。まあ、真面目そうな子だもんねえ。素直で、真っ直ぐで、ひたむきで。仕事頑張ってるんだねえ。淋しいだろうに」


「ちょ、ガッさん。なに涙ぐんでるんですか」

 作業を終えた優馬がメモリーカードを菅沼に返す。


「いや、最近年のせいか涙もろくてねえ……ああ、ありがとう」


 大きな手で目元を擦る菅沼に戸惑いつつティッシュの箱を差し出している陽に向かって首を振り、優馬は手招きした。写真のフォルダの場所と、ブログとFacebookの連動のしくみについて一通り説明する。


 その後ろで、ティッシュの箱を抱えた菅沼がコミュニケーションの重要性を涙混じりに力説していた。




______________________________________



菅沼「インスタやツイッターはやらないの?」

優馬「Facebookはブログの更新通知のみ、画像を載せるのはブログだけにします。他はやらない。手間の割にウマ味が薄いし利用者層を考えると云々」

陽「???」

優馬「気にしないでください。こいつは文明に取り残されてるんです。野生児なんです」

菅沼(困惑顔の陽くん可愛い♡激写しちゃお! パシャパシャパシャ)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る