第55話 気になるもの
「ねえ、陽。そのアザ、大きくなってない? 大丈夫なの?」
恵流は眉をひそめ、陽の胸に残る赤い痣を見つめている。
なんとなくそのアザを擦りながら、陽は鳩尾の辺りに浮かぶ痣を見下ろした。
「杖のお爺さんとぶつかった時って言ってたよね? やっぱり怪我したんじゃ」
「いや、ほんとにその時かはわかんないんだ。吹っ飛ばされた時に、ちょっと熱く感じたってだけでさ。でも、痛みも無いし、心配無いって」
毛布にくるまったまま身を起こし、恵流は心配そうにアザを凝視した。
「でも、心臓に近い位置みたいだし、なんかおかしいよ。不吉な感じがする」
陽は起き上がって手を伸ばしシャツを取ると、そそくさとそれを被った。
「大丈夫だって。不吉どころか、最近すげえ調子いいんだ。描いてると、なんかすごいエネルギー湧いてくる感じ。やる気出るっていうか。それに壁絵の仕事も入ったし、運が向いてきてる気がするぐらいだよ」
「でも……」
なおも心配そうな顔をする恵流の頭にポンと手を置き、陽はくしゃくしゃと髪をかき乱した。色素の薄い柔らかな髪が、恵流の心配顔を隠す。
「春に健康診断があるから、そん時までに治らなかったら医者に聞いてみるよ。もし少しでも具合悪くなったら、すぐに病院行くし」
「うん……ねえ、そのお爺さんてどんな人だったの?」
髪を直している恵流を置いて、陽は薄手のニットパーカーを羽織り冷蔵庫へ向かう。
「うーん……あの時は酔っぱらってたし、よく憶えてないんだけど……」
冷蔵庫の前にしゃがみ、シュゥエップスのトニックウォーターと、恵流の好きな缶入りのカクテル飲料を取り出した。
「黒いステッキをついてて、黒っぽい眼帯をしてたのは憶えてる。あと、黒いコート着てたかな。膝丈ぐらいの」
「黒づくめ?」
「道が暗かったから、そう見えただけかも。あ、あと帽子も被ってたような……」
ベッドへ戻って来ると、栓を開けてやり、恵流に飲み物を手渡した。
自分のトニックウォーターのキャップも開け、小さく乾杯する。何か飲む度に乾杯するのは、既にふたりの習慣になっていた。
「それよりさ、こないだ優馬さんから預かった物があるんだ。遅いクリスマスプレゼントだって」
陽は、ベッドのヘッドボードの上に置いてあった小箱を恵流に手渡した。
「私に? なんだろ………あれ、USB?」
† † †
恵流を送った陽がちょうど部屋へ戻った頃、当の恵流から『深夜に叫びました』というタイトルのメールが届いた。急いでメールを開く。
そこに映し出されていたのは、恵流の部屋のパソコン画面のスクリーンショットだった。
スクロールしてみると、よりはっきりと写った画像がさらに添付してある。よくよく見れば、菅沼が撮影した陽の写真の数々だ。
メール画面の一番下に、恵流からのメッセージが書き込まれていた。
「陽の写真がたくさん! ほんの少ししか写真持ってなかったから、すごく嬉しい! 優馬さんにお礼を伝えて下さい。おやすみなさい」
陽は一瞬頭を抱え小さく呻いたが、項垂れたまま苦笑いした。すぐにメールを返す。
「了解、伝えます。おやすみなさい・・・・優馬さん、どうりでニヤニヤしてると思った。あの野郎!」
______________________________________
恵流「陽の……陽の写真が、いっぱぁぁぁぁぁぁぁい!!!о(ж>▽<)y☆ プリントアウトしてお部屋中に貼ろうっと!あ、確か写真からポスターを作れるサイトがあったはず……」
陽「恥ずかしいですやめてください(/ω\)」
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