第41話 ノリノリな人達
「すげえ。あのグダグダな雑談が、ちゃんとした記事になってる」
「まあな。言ってもプロだからさ」
記事の内容をプリントアウトしたものをめくりながら、陽は感心したように読み進めている。
「……けっこう順番入れ替えたり、削ったりしてるんだね。恵流の事とかも話したのに」
「ああ……まあ、なんだ。紙面の都合ってやつだな」
優馬は嘘をついた。いや、完全に嘘と言うわけではないが、実際のところは読者の喰い付きを考えてのことだった。
取材対象者の男女を問わず、恋人の存在が明かされると、多くの場合喰い付きが悪くなるものなのだ。
「んで、こっちが写真」
優馬がもう一冊のクリアファイルを陽に手渡す。
パラパラとめくって見ると、プリントアウトされた数枚の写真には、それぞれキャプションが付けられていた。
「写真、こんなに載せるんだ……なんか恥ずかしいな」
「それがな……もっと増えるかもしらん。なんと現在、2週ぶち抜き企画に変更するように申請中だ」
「何それ」
驚いて写真から顔を上げた陽に、優馬は何故か得意気に説明する。
「異例中の異例……っていうか、初の試みだな。芹沢さんとマヌガッさんがノリノリでさ。上に猛プッシュしてる。文章量はほぼこのままだけど、写真増やしたいって」
「ああ、なんかいっぱい撮ってたもんね。絵の写真とか」
鼻息荒く駆け回る芹沢と菅沼の様子を思い出し、優馬は頬が緩むのをなんとか堪えた。
このコンビは腕はいいが口が悪いと評判で、よく言えば掛け合い漫才、悪く言えば罵り合ってばかりいる。そんな二人が、今回ばかりは手を取り合わんばかりの協力体制で事を進めようと動いているのだ。
もちろん優馬も他部署ながら、力の限り協力するつもりだった。
「似顔絵やってるときの写真も欲しいって言ってたから、そのうち話が行くかも。いいよな?」
えええ……と、陽は天を仰ぐ。
「俺、写真苦手……って、来るのはあの、菅沼さん?」
「もちろん」
優馬が重々しく頷く。
うぅ……今度は、会議室の机に突っ伏した。
「あの人、なんか怖い……あ、そうだ。優馬さんも一緒に来てくれるならいいよ」
「甘えてんじゃねえ」
優馬は笑って、陽の手からファイルを取り上げた。
「ま、元々行くつもりだったけどな。じゃ、追加撮影はどっかの土曜日ってことで」
「……はーい」
陽はいかにも渋々といった感じの低い声で答えた。
階下からは、騒がしい声が聞こえる。
原稿と掲載写真は社外秘ということですぐに取り上げられてしまったが、優馬はそれとは別に、B4サイズ程の集合写真や、社員を個別に撮った写真等を皆に渡していた。おそらく皆で、その写真を回し見ているのだろう。
それらの写真は、菅沼からのサービスであるという話だった。工房の皆がとても喜んでいるので、陽としては追加撮影を断りづらい。
もちろん、そうなることを見越してのサービスだと思われた。
(でも、まあ……)
机に突っ伏したまま、陽は少しくすぐったい気持ちで階下の賑わいに耳を澄ませた。
(みんな喜んでるし。少し、ほんの少しだけど、恩返しになったかな……)
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陽「なんかさぁ、本人差し置いてみんなノリノリで、蚊帳の外感がハンパないんだけど」
優馬「お前もノリノリになれば問題なし」
陽「う……い、イェ〜イ! …………うん、やっぱ無理(_ _。)」
優馬「お前にしてはよくやった」
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