第13話 恵流とアヤ


『お弁当作戦、とりあえず成功です。すごく喜んでくれました』


 たったこれだけの短いメールを、恵流はアヤに送った。

 彼の家庭の事情のことは話す気になれず、また話すべきではないような気がして、詳しく書けなかったのだ。


 と言っても、そもそもそれ以上突っ込んで聞くことも出来なかったのだが。

 家庭環境について詮索するのは不躾な気がしたし、何よりせっかく嬉しそうに食べているのを邪魔したくなかった。


アヤから光の速さで電話がかかってきた時には、恵流は彼の家庭の事には触れずに報告をしようと決めていた。





「……前にアヤさんが言ってたとおり、以前にも、お客さんからお弁当やお菓子を差し入れされたことはあったんだって」

「ふうん。やっぱりね……」


「アヤさん、すごい読みだよ。でもね、『アレルギー持ちなんで』って断ってたって」

「あはは。それは酷い」


 電話の向こうで、恵流もつられて笑っている。


「私も笑っちゃったけど、実際にアレルギー持ってる人に悪いよね。でも、『知らない人が作った物なんて、何が入ってるかわかんないし』って。言われてみれば、確かにそうだよねって思う」

「ちょっと待って。大月くんはそれ言いながら、恵流のお弁当はバクバク食べてたのよね?」


「うん? ほとんど大月くんが平らげてたよ。おにぎり4つも」

「それはいいのよ。あのさ、それって、恵流はある程度信用されてるってことよね? 少なくとも、なんの疑いもなくアンタのお弁当を食べる程度には」


 数秒の沈黙の後、恵流が呟いた。


「……あ。確かに」

「………アンタほんとに、鈍いわね」


 アヤは呆れて、ローテーブルに肘をついた。なんだかちょっと脱力してしまう。


「一歩前進、出来たかのなあ……」



 恵流に聞こえない様に受話器を少し離し、アヤはため息をついた。


 この子の自己評価の低さは何なんだろう。もう少し自信を持っても良さそうなもんだけど。相手の事を好きすぎると、そうなっちゃうものなのかな。片思い期間が長いわけだし……



「何歩前進だか知らないけど、とにかくガンガン行きなさい。鈍いモン同士お似合いではあるけど、グズグズしてたら何も始まらないわよ」


「……うん。わたし頑張る! 暑くなるまでに、お弁当いっぱい作る!!」



 アヤは思わず天井を仰ぎ、目を瞑った。

 気合い漲る答えだが、ちょっとズレているような……




______________________________________

<オマケ>


アヤ「手作り弁当なんて、旧い手だけどね。結局、効くのよ。こういうのが」

恵流「すごい、アヤさん。電話越しにドヤ顔が見えるようだよ! で、アヤさんはそういう相手、いるの?」

アヤ「……聞かないで」

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